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未来サイト 11話~21話 [小説 未来サイト 全49話]

11話 2006年8月  残暑
12話 2006年8月  アイスキャンディ
13話 2006年8月  趣味
14話 2006年9月  専業農家
15話 2006年9月  難民
16話 2006年9月  愛おしく
17話 2006年10月 苛立ち
18話 2006年10月 夜空
19話 2006年10月 嘘
20話 2006年11月 熱気
21話 2006年11月 見えないもの



11話 2006年8月 残暑

 真理と由香は、何も目的や目標もなく、ただ親元を離れて生活をしたいという思いだけで、東京大学を選んだ。時が経てば何かを見つけられると思い込み夏休みを迎えた。そして、真理と由香は夏休みの間を殆んどバイトに明け暮れていた。
 お盆を過ぎても猛暑は続き、いつか誰かが温暖化を解決してくれるだろうと願いつつ、真理はエアコンの設定温度を1度上げた。
今日は、由香はバイトで、真理はテレビ放送される格闘番組を観るために休みを取った。真理の予想通りの展開でトーナメントは進み、決勝は予想外ではあったが充実感を得られた。
 真理はテレビを消してパソコンを立ち上げる。いつものように格闘技サイトがトップページを飾り、本日のハイライトをチェックする。一通り見直すと改めて感動の余韻に浸る。他にも情報がないかサイトを隅々まで観ると見慣れない広告を発見する。
「未来サイト?」と真理は思わず声を出しそうになった。そのサイトに飛ぶと、『奇跡』と題して書き込みがあった。

[初めまして、私はこのサイトで運命の人と出会った一人です。]
[このサイトでは、未来に関係する人と出会うとの事で、登録(半信半疑で)してみました!]
[すると一人の男性を紹介してもらい、サイト内でメールのやり取りを始めました。]
[ちょうど、7年付き合ってきた彼と別れ、仕事もうまくいかずに落ち込んでいたからか、彼の優しい言葉や励ましに、いつもの自分を取り戻しつつありました。]
[その頃、会社の同僚でサイトの男性の言動とよく似たタイプの人に興味を持ち、山あり谷ありで、ナント結婚しました♪]
[サイトの男性にも報告をしようとメールを送りましたが、返事はありませんでした。]
[さり気無く同僚の彼に『未来サイトって知ってる?』と聞きましたが、全く知らない様子でした。]
[そうですよね?すでに運命の人が側にいたら、返事なんてありませんよね(*^^*)]

真理は書き込みを読み終えて無性に腹立たしくなった。エアコンの設定温度を2度下げて、

[偶然の重なりを奇跡と呼ぶなら、好きな人と別れる事も奇跡ですよね?]
 送信

真理は書き込みにコメントを添えた。

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12話 2006年8月 アイスキャンディ

 バイトの帰り道、
「変なサイトに引っ掛かってさぁ、嫌味なコメント書き込んじゃった。」
アイスを食べながら歩く由香に、真理は昨日の話をしだした。
「変なってどんなの?」
「未来の人とチャットかな?メールかわかんないけど、話ができるってサイト?怪しいでしょ。」
真理は詳細を読んでいないため適当に答えた。由香は、子供がアイスを食べながら空を見て歩く姿で考え込む。由香は急に立ち止まり、
「面白そう!早く帰ろっ。」
と真理の手をとり、今度は走り出した。

 家に着くなり、由香はパソコンの電源ボタンを押した。
「はやくっはやく!」
と立ち上がりを急かす。由香は何かを期待しているようだ。真理がトップページの格闘技サイトから『未来サイト』をクリックする。
「あ、昨日のコメントの返事がある。」
真理はゆっくりと返事を読み上げた。

[コメントありがとうございます。]
[突然ですが、あなたは幸せですか?私は幸せです。]
[奇跡と題したのはオーバーだったかな?でも未来サイトを通じて、大切な人と出会いました。]
[サイトの男性と主人が似ていたのは偶然かもしれませんが、未来サイトに登録したこと、主人と親しくなったことは、私が行動を起こした結果です。]
[その行動や勇気を与えてくれたのは未来サイトやサイトの男性で、とても不思議な体験でした。]
[失礼な事をいいますが、幸せを感じていないならば、未来サイトはお勧めです!]
[何かの『きっかけ』を与えてくれるかも知れませんし、何も起こらないかも知れません。]
[ただ、ジッとしているより動いたほうが納得いくでしょう?]
[それでは失礼します。]

真理と由香は、
「幸せかぁ~。」
とため息を吐くようにハーモニーを奏でる。その後聞こえてくるのは、パソコンのファンが回る音だけだった。
「真理、登録してみなよぉ?」
由香は肘で真理の背中を押す。もう一度ファンが回る音を聞いて、
「じゃあ、試してみる?」
と真理は、新規登録画面を開いた。

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13話 2006年8月 趣味

 未来サイトの登録は、名前と生年月日を入力するだけのものだった。あとは相手から返信メールがサイトに届く。サイトを通してのやり取りで料金は無料。
 30分経っても返信はなく、由香は苛立ちを、
「真理の未来がないと返事もないかぁ?」
と皮肉った。真理は顔も向けず黙っていた。さらに10分ほど経ち、真理あてに返信メールが届いた。

[はじめまして、僕は小林 隼人といいます。]
[こういう時は、自己紹介からすればいいのかな?]
[東京在住で会社勤めをしている38歳の独身です。]
[趣味は音楽と空手。空手のほうは趣味が高じて、週末に空手教室の師範代を勤めてます。]
[簡単な紹介ですけど、まずはこのくらいで。次は真理さんのこと教えてくれませんか?]
[それと解っているとは思うけど、出会い系サイトやお見合いサイトと思っているのであれば、ごめんなさい。期待に応えることはできないので・・・。]
[ではお返事待ってます。]
 着信

開口一番は由香だった。
「38歳だって?結構年いってるね?!」
由香の考えているであろう事を察して、
「あたしの未来に関係がある人ってことでしょ?ほら。」
と返信メールを指差し、
「ね、出会い系じゃないし、この人と結ばれるって訳でもないんだし。」
真理は、未来サイトを正当化しようと説明した自分が恥ずかしくなり、耳が赤くなった。
「とりあえず、返事待ってるっていうんだから返したら?」
家に着いた時のテンションより、明らかにトーンダウンをしている由香だが、興味を失せていないようだ。
 真理と由香は、小林 隼人としばらくメールのやり取りを続けたあげく、『いい人そう』と結論付けた。

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14話 2006年9月 専業農家

 夏休みも終わり、真理と由香は学生生活に戻った。いつものように講義終了と同時に、竜馬が真理と由香のもとへ行く。

 ここで竜馬について触れておく。竜馬は夏休みの間は実家へ帰っていた。竜馬の家は専業農家で、子供のころから時間があれば農業を手伝っていた。見た目は遊び好きのようだが、話してみると明朗な青年で、物事を白黒はっきりしている。知らず識らず、大学の女子からも人気があった。

「よっ!」
竜馬は真理と由香の背中越しで声を掛ける。真理と由香は同時にぴくりとした。
「なんだ、竜馬かぁ。」
と由香は振り向いていう。
「『なんだ』じゃなくて、・・・ちょっといい?」
いつになく真剣な竜馬に戸惑う二人。真理は、
「どうしたの?」
「うん・・・。あのさ、今日学校終わった後って時間ない?2人に話したいことがあって。」
竜馬はうつむき加減で話す。
「うん、大丈夫だよ。」
と由香は答えるが、真理も由香もアルバイトの日だった。真理は一瞬、由香を見る。
「じゃあ、学校終わったら『フランケン』で!?」
「うん。」
 竜馬は立ち去り、真理はもう一度由香を見る。
「バイトはどうするの?」
由香は何も答えず、
「もぉ~。」
と真理は、あきらめの溜息を吐く。

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15話 2006年9月 難民

 竜馬の指定した『フランケン』は、渋谷の外れにある小さな飲食店で、店名は『フランケンの花嫁』という。昼間は喫茶&雑貨店として、夜になるとBARへと変わる。
 真理と由香は、テーブルに着いてアイスティーを頼む。間もなく竜馬が店に入り定員に、
「バーボンロックで。」
と注文。
「ごめん、待たせた?」
竜馬は二人のテーブルに座り、呼吸を整える。飲み物を運んできた定員が、真理と由香のアイスティーと竜馬のバーボンロックを置く。竜馬はバーボンロックを一気に飲み干す。そして、
「バーボンロックで。」
と同じものを頼む。
「どうしたの?話があるっていうから来たけど?」
由香が店の華やかさにそぐわない声で問いかける。竜馬が注文した二杯目のバーボンがテーブルに置かれて、
「実は2人に話したくて・・・。」
竜馬はテーブルのバーボンを一見し、2人を見詰め直す。
「2人にどうしても話したいことがあって・・・。」
いつにない竜馬の口調に、由香は黙って聞いている。真理はただ、その空気の中にいた。しばし沈黙が続き、竜馬は改まり、
「俺・・・、来週からアフリカへ行くことになった!」
「えっ?」
由香の声は裏返った。続けて真理が、
「どゆコトっ?」
と片言で話す。
「アフリカへ行って、ボランティア活動しながら語学の勉強しようと思ってさぁ・・・。夏休みに実家へ帰ってたんだけど。ほらぁ、うち農家だろ?親父は後継がせたいみたいなんだけど、俺は昔から福祉の仕事がしたいと思ってたんだ。」
「親父には言いづらくて、おかんに話したら『好きなようにしなさい』だって・・・。」
竜馬はテーブルの脚をみながら、
「ちょうど、アフリカ難民救済のボランティア団体の募集があって、今月締めだから間に合わないと思ったんだけど、『定員に空きができた』って連絡があってさぁ・・・。すごい迷ったんだけど、参加することにした!!」
由香は、話を折るまいと堪えて聞いている。竜馬はバーボンを一口含み、真理と由香にかしこまる。そして、
「それと、もう一つ!」
真理は、はち切れそうな由香をテーブルの下で手を握る。
「俺・・・、アフリカから帰ってきたら由香に告白しようと思ってる。」
爆弾が投下された。
「覚えてる?入学式のこと。初めて由香を見て、思わず真理に声掛けたんだよね?!ダセーだろぉ?俺??」
竜馬は昔を思い出したのか、少し微笑みながら、
「いつも二人一緒でさ、いろいろ話してると、このまま友達でいた方がいいんじゃないかって思えてきて・・・。」
真理の中にある小さな手は、小刻みに震えている。
「いろんな意味で中途半端だから・・・。アフリカへ行って、本当の自分を観付けてくる。その時にもう一度、由香に逢いたい。」
「いいよっ。待っててあげる。」
由香の一言で、真理は呼吸を忘れた。
「でもあんたが帰ってくるまでにあたしがいい男と一緒になってたら、諦めてよね?」
由香はバッグを取り、
「真理っ行くよ!バイトに遅れちゃう。」
と足早に店を出ようとする。真理は一度竜馬を見るが何も言わず、由香の後を追った。

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16話 2006年9月 愛おしく

 『フランケンの花嫁』を出た由香は風を切るように歩く。真理は、駆け足で由香に追いつく。
「由香、これでいいの?」
「いいのぉ!これで。」
真理は、歩くスピードを緩めない由香についていくのが精一杯で、
「由香、どこに行くの?」
「家ー!」
由香がバイト先へ向かっていないことに真理は気づいていたが、声を掛けなければどこまでも遠くへ行ってしまいそうな気がした。

 家に着くと由香は真っ先にトイレへ入った。出てくる様子が一向にないため真理は、
「由香~、聞こえる?大丈夫?」
とトイレの扉の前で話しかけるが返事はない。もう一度声をかけようとした時、中からすすり泣きが聞こえた。
「由香、このまんまじゃ・・・。アフリカ行っちゃう前に連絡したほうがいいよぉ。」
静まり返った室内に(キィー)と扉の開く小さな音が響く。
「竜馬は自分の気持ちだけ整理して・・・、自分の言いたいことだけ言って・・・。」
由香は泣きながらトイレから出てきた。
「あいつは・・・自分のことしか考えてないよねぇ?あたしのことなんか・・・これっぽっちも考えてないよねぇ?」
真理は慰めの言葉も見つからず、由香の話を聞く一方だった。
 由香はベッドの中央で呆然と座り込み、真理は何もすることが見つからず、『フランケン』の出来事を振り返った。そして今とは別の感情が湧き上がる。
真理の知っている由香は、あの状況ならその場で泣き崩れていただろう。実際、崩れる寸前だったに違いない。しかし、泣くどころか気丈にも振舞い、更に竜馬の気持ち、自分の気持ちを冷静?に判断している。昔なら考えられないことが、真理には嬉しくも愛おしくも想えた。
 どれだけの時が流れただろうか、
「真理ぃ、携帯取って。」
と由香はベッドの上から願う。真理は何も言わず由香のバッグを探した。

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17話 2006年10月 苛立ち

 郵便ポストから一通の手紙を取り、ひとりでニヤけた顔をする由香。急いで部屋に戻り封を切る。


  拝啓 お手紙承りました。
こちらは暑さを増しており、栄養の足りていない子供たちには、とくに深刻です。それでも必死に生きる姿に深い感銘を受けています。
話変わって前回の手紙の続きだけど、迷う必要ないよ。由香は真っすぐで素直なんだから、正しいと思えたならそれでいい!
・・・(省略)・・・
いつも由香に励まされている俺だけど、たまには相談乗るからね!
それでは、また手紙待ってます。
由香に逢えることを待ち遠しく思う竜馬より  


 結局由香は、竜馬がアフリカへ行く前に連絡を取り、手紙のやり取りをする約束をした。その手紙を読む間は、はにかんだ笑顔や顔を歪ませたりと複雑な表情を見せる由香を、真理は眺めていた。
「何度も読み返したって変わらないよっ。」
真理は皮肉った言い方をする。
「いいのぉ!」
と由香は笑顔で応える。
「手紙っていいよねぇ~。ほら、普段メールとかだと伝わりきらないものが、手書きにすると気持ちが表れるっていうかぁ、なんかいいよね?!」
由香は浮かれ気分で手紙を見つめる。真理は溜息をついて、
「竜馬と由香は、別に付き合ってる訳じゃないんでしょ?竜馬だって言ってたじゃない。自分を見つめ直すとか、気持ちを確かめて告るって?」
真理の強い口調に由香は驚いた。
「付き合ってないよ。だけど好きなんだもん・・・。しようがないじゃん。」
真理はさらに強く、
「竜馬も竜馬。そんなラブラブな手紙書くなら、アフリカ行く前に告ったって良かったんじゃないの?それなのに二人してデレデレしちゃって・・・バっカみたい。」
由香はうつむいたまま、
「真理には竜馬の気持ちなんて解らないくせに・・・。」
由香は手紙と携帯をバッグにつめて、部屋を出た。

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18話 2006年10月 夜空

 真理は未来サイトで出会った小林 隼人とメールのやり取りを続けていた。

[さっき由香とケンカしちゃった(T_T)]
[前に話した、アフリカへ行った竜馬のことで。]
[何でだろ?ただ私がイライラしてただけなんじゃないかって・・・。]
[訳分からないメール送ってごめんなさい<m(__)m>聞き流してください。]
[またメールします!]
 送信

誰かと話していなければ、いたたまれない真理は一方通行のメールを送った。しかし、すぐに隼人から返信がきた。

[こんばんは。ひどく落ち込んでそうだからメール返します。]
[そりゃあ僕だってイライラする事もあるよ。]
[でも人には当たらない。正確に言うと当たる人がいないっていうのが現実かな?]
[前に聞いてた竜馬君のことなんだけど、男同士だからかなぁ?気持ちは解るんだ。]
[自分の夢や目的がアフリカにあれば僕だって行くし、好きな人がいれば自分の気持ちを伝えたいと想う。]
[竜馬君は由香ちゃんの想いに気付いていたと思うよ!?由香ちゃんてストレートな子でしょ?(笑)]
[竜馬君も結局ストレートなんだよ!今を生きるから、今の想いを伝えるんだってね。]
[告白は帰国してからって猶予を持たせたのは、自分が帰国するまでに由香ちゃんの気持ちが変わってもいいと覚悟してるからだと思う。]
[竜馬君は決して由香ちゃんの気持ちを弄ぶはずないよ!]
[ごめんね、長々しく語っちゃって。]
[何はともかれ、ちゃんと仲直りしてね。真理ちゃんにとって由香ちゃんは大切な人なんだから。]
[ではでは、今日は遅いからゆっくり休んでください。おやすみ]
 着信

真理は、隼人の言葉を深く受け止め、

[隼人さんってすごい!私より由香や竜馬の気持ちが解ってるみたい。]
[結局、私は自分の考えだけを押し付けて、勝手にイライラして、相手のことなんて全く理解しようとしてなくて・・・。]
[由香は大切な人で、幸せになってほしい。]
[夜遅くごめんなさい。由香とちゃんと仲直りするから心配しないでください。]
[それと隼人さんにメールしてよかった(^_-)-☆]
[またメールします、おやすみなさ~ぃ(-。-)y-゜゜゜]
 送信

 深夜1時を回って由香は帰ってきた。
 翌日、由香は風邪をひいてしまった。わだかまりの中、献身に看病する真理に対して由香は、
「ありがとう。」
と応えた。
不思議なことに、その言葉だけで、二人のわだかまりは無くなってしまった。

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19話 2006年10月 嘘

 真理と由香はいつも通り大学へ向かう。通学途中の電車の中で、
「ね~、真理ぃ。朋生とは発展してないの?」
「なに突然?」
真理は由香の唐突な発言に驚いた。
「たまに朋生からメール貰ってるんでしょ?」
「メール届いてもほとんど格闘技の話ばっかだよ。」
と真理は本当のことを打ち明けた。由香は眠い目をこすりながら、
「ふ~ん。隼人だっけ?じゃあ、あの人とはどうなってるの?」
さらに尋問は続く。
「隼人さんはー、いろいろ相談にのってもらってるだけ!」
「ふ~ん。」
と由香は期待はずれの回答に不満そうな返事をした。車窓に映る真理の姿は、明らかに動揺していた。

 講義を終えると普段なら竜馬が飛び込んでくるが、その竜馬は現在アフリカにいる。今日は珍しく朋生が飛び込んできた。
「真理ちゃん、ちょっといい?夜、バイト無かったらご飯でも食べにいかない?すごい物を手に入れたから見せたくて!?」
朋生は興奮気味で話す。すると由香は、
「バイト休みだし、行ってくれば?」
とちゃかして言う。真理は、朝の車内のことを思い出していた。そして、
「ごめん、今日は体調悪いからまっすぐ帰るね、また今度。」
「そっかぁ、残念。」
朋生は肩を落として教室を出て行った。
「なんで断っちゃうのよぉ?」
と由香は真面目な顔で言う。
「本当に調子悪いから。」
真理は嘘をついた。

 真理と由香は家に着いた。と同時に真理の携帯に朋生からメールが届く。

[体調はどう?よくなった?]
[今日見せたい物って実はプライドのチケットだったんだ。]
[来月の横浜の試合なんだけど、もし良かったら観に行かない?]
[日にちないし、体調もそうだけど予定も埋まってるかな?]
[返事待ってるね!]
 着信

真理はカレンダーを確認して、得意の早打ちでメールを返す。

[日曜日だよね?体調治すから絶対行く!]
 送信

[よかった!詳しいことは、また今度メールする。]
[今日はゆっくり休んでね。]
 着信

格闘技のことになると目の色が変わる真理は、由香に悟られないように冷静を装う。
「何かいいことでもあったぁ?」
と由香は着替えながら言う。
「ん?別に。」
真理は言葉少なくこたえた。真理も着替えようと上着を脱ごうとするが、胸の鼓動が由香に伝わってしまいそうで、胸まで脱ぎかけた上着を着直した。

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20話 2006年11月 熱気

 クイーンのWe Will Rock Youが流れる中、アンディ・フグは登場する。試合は終始アンディ優勢で進むが、怪我を押しての出場のため、気力で闘っている。アンディの回し蹴りがマイクの膝に食い込む。そして・・・
歓喜の雄叫び。リングの中央に立ったアンディは、
「真理ー、真理ぃ~。」
真理は涙をこらえてリングへ上がる。アンディに抱きしめられると、こらえていた涙が止まらない。涙を拭ってアンディの顔を見ようとするが見えない。何度も何度も拭っても涙は溢れるばかりで見えない。リングサイドから鐘の音が鳴り響く。その鐘の音が、目覚ましのアラームと気付くには、しばらく時間が必要だった。

 真理は最悪の目覚めで朝を迎える。急いで出掛ける仕度をした。
「真理~、朋生とデートぉ?」
由香はベッドから上半身を起して、寝ぼけ顔で言う。真理は、
「違う!プライドの試合観に行くの。それと朝食は冷蔵庫にあるから、チンして食べて。」
「あ~い。」
と由香は二度寝の準備を始めた。

 待ち合わせの渋谷に着く。約束の時間になっても朋生の姿はない。真理は、すぐにメールを送るが応答もない。
「ごめん、ちょっと遅れた!」
と朋生は苦笑いを浮かべながら現れた。
「遅れるならメールくらいしてよ!?それにさっきメール送ったけど届いてない?」
真理は、朝の悪夢の苛立ちと重なり、不快感をあらわにする。朋生は、
「メールは届いてたけど、あとちょっとだったから返信しなかった。」
「もうぉ。急ご、間に合わなくなっちゃう。」
と真理は朋生を置き去りにする勢いで歩き始めた。

 アリーナに着くと、すでに長蛇の列を成していた。期待と興奮で熱気を帯びている。真理も朝からの出来事をすべて忘れ、熱気の渦へと身を任せた。
トーナメントは順調に進んでいたが、決勝戦はアクシデントがあり、予想外の展開となった。試合が終わっても真理と朋生は余韻に浸り、その場から動けなかった。真理は、つい先ほどまで死闘を繰り広げていたリングを見詰めながら、
「すごく、良かったっ!」
「うん、ぐっ、本当に良かった!!うぐ。」
真理は朋生の異変を感じて顔を覗き込むと、見たこともない不細工な泣き顔をしていた。
「凄すぎた!感動した!」
と朋生は真理に顔を近付ける。真理は一挙に体の火照りが冷めた。しかし、会場の熱に再沸騰。その熱が冷めぬ内に二人はアリーナを後にした。

 真理と朋生は、食事を摂ってから帰ることにして、近くのレストランへ入った。
「なににする?」
と朋生がメニューを真理に開きながら聞く。
「う~ん、これで!」
と真理は指で示す。朋生がウェイターに注文し、テーブルの水を飲む。グラスをテーブルに置くと、
「今日はどうだった?」
朋生の一言で、真理はフラッシュバックのように試合の映像が甦る。
二人はレストランから出るまで、格闘技の話以外は何もしなかった。

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21話 2006年11月 見えないもの

 部屋の整理整頓が終わると、真理は格闘技サイトを見るためにパソコンを立ち上げた。朋生と行ったプライドを見直すのは、これで3度目だ。一試合目から順番に再確認をしながら頭の中の映像を甦らせる。最後の試合を見終えて、真理は初めて充実感を得る。
この充実感を伝えたくて隼人にメールを送った。

[こんばんわ~(^o^)丿]
[この間の日曜日に、プライド観戦に行ってきました♪]
[隼人さんも格闘技好きですよね?最後の決勝はどうでした?]
[私はあの結果でよかったと思うんだけど、隼人さんはどう?意見聞かせて]
 送信

[こんばんは。]
[実は僕も観に行ってたんだよ!]
[決勝戦は番狂わせのところもあるけど、これがトーナメントの面白さだと思う。]
[だから僕的には納得のいく試合だったよ。]
 着信

[隼人さんもアリーナにいたんだぁ?]
[前もって言っておけば良かったね!?そうしたら会ってお話くらいできたのに。]
[もし、こんな機会があったら誘ってくださいね(*^_^*)]
 送信

[真理ちゃんに言いそびれてたことがあるんだけど、]
[昔事故にあって足が不自由なんだ。杖があれば歩くことは出来るんだけど、普段は車椅子で生活をしている。]
[だから行動範囲も限られてしまって。この間のような機会も少ないと思うけど、次は気兼ねなく誘うね!]
 着信

[そうだったんだ?]
[私まだまだ隼人さんのこと知らないんだね。]
[でも、こうして話していくうちに少しづつ解ってくるし、なにより、何度も相談に乗ってもらって、すっごく感謝してますm(__)m]
[改めてだけど、これからもよろしくデス!]
 送信

しばらく隼人とメールのやり取りを続け、パソコンを閉じた。真理は、隼人と一度会ってみたいと前々から思っていた。それだけ隼人への恐怖感や疑念はなかった。むしろ・・・

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コメント 4

響(きょう)

ポチッとします♪
by 響(きょう) (2007-10-18 16:13) 

トシシロ

響さん、ありがとうございます。
by トシシロ (2007-10-18 16:16) 

響(きょう)

もっとたくさんの人に見てもらいたいですよね。
でも、時間が無いと他のブログへの訪問も難しいですし・・・。
by 響(きょう) (2007-10-19 15:19) 

トシシロ

全編まとめて、ブログではなく、別のところにアップしようかなと考えてます。
by トシシロ (2007-10-19 15:40) 

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