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未来サイト 22話~30話 [小説 未来サイト 全49話]

22話 2006年11月 マカ
23話 2006年12月 クリスマス
24話 2006年12月 メールX'masパーティー
25話 2006年12月 大晦日
26話 2007年1月  初詣
27話 2007年1月  川の流れのように
28話 2007年2月  さえない男の一日
29話 2007年3月  憂鬱
30話 2007年4月  桜



22話 2006年11月 マカ

 下北沢駅から鎌倉通りを成徳高校へ向かったところに『マカ』という飲食店がある。そこで真理はランチを済ませ、得意の携帯早打ちでメールを打つ。すると、、
「真理って最近、家でパソコン、外では携帯のどっちかだよねぇ?」
由香は食べ残したパセリをナイフで細かく切っている。
「誰からメール?朋生から??朋生なんかほっといて、あたしをかまってぇ~。」
パセリを切り終えた由香は、暇で時間をもて余す。
「妹からメール。彼氏できたんだって。」
真理は、妹から送られた彼氏の写メを由香に見せた。由香は、
「おお、イケメ~ン!ナイス、チェリーボ~イ。」
「由香!それ使い方間違ってるから。」
二人が携帯を覗いているとメールが届いた。朋生からだ。
「あ、噂をすれば何とかだ。」
由香はことわざを思い出そうと首を傾げている。よそ目に真理はメールを確認する。

[今日は何してるの?]
[たぶん知ってると思うけど、年末に竜馬が帰ってくるんだ。]
[それでみんなで大晦日から初詣に行こうって話なんだけど、どう?]
 着信

「由香、朋生からみんなで初詣いこうって?行くよね?」
真理はメールの内容を伝えるが、由香は何もこたえなかった。

[うん!由香にも言っておく。]
 送信

「朋生に行くってメールしたよ。いいんだよね?」
真理は、ことわざではないことで考え込んでいる由香に、
「竜馬と2人っきりが良かった?でも、みんなで年越すのも楽しそうでしょ?それに2人っきりになることなんて、これからいくらでもあるんだからさぁ。」
由香は一呼吸おいて、
「そうだよね?これからいつでもあるもん。」
少し寂しそうに、由香は自分に言い聞かせた。真理は、そんな由香の愛くるしさに、
「由香、カワイイ~。」
と頭を撫でて慰めた。

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23話 2006年12月 クリスマス

 部屋の明かりを暗くして、所々にキャンドルをたてる。キャンドルの色がまちまちで、部屋の壁を幻想的に演出している。何千年か前のこの日、一人の人間が生まれたことは、真理も由香も知っていた。
 真理が冷蔵庫から、お店ですでに切り分けられたケーキを二つ取り出し、テーブルの上に置いた。
「本日のメイン登場~。」
「メリークリスマ~ス。」
由香は上機嫌にフォークをたてて、何度もテーブルに打ち鳴らす。
「さっ、食べよ。」
真理はソファに腰掛け、
「いただきま~す。」
と手を合わせる。由香は、『いただきま~す』の『き』と『ま』のあたりで、フォークとケーキは出会っていた。
真理と由香は、物を食べている時は無口になる。しかし、ケーキを食べる間の無言は一瞬だった。そして、
「美味しかったぁ~。」
と由香の感想で締めくくった。
 テレビを点けると、ほとんどの局はクリスマスの特番を放送している。二人は、(きよしこの夜)をテレビに合わせて歌っていた。その時、携帯のバイブレーションが響く。
「由香、携帯なってるよ?」
真理は由香の携帯を指さした。由香は携帯を開き、歌うのをやめた。
「うそ?竜馬だっ!」
携帯の画面を真理に向ける。

[南 竜馬だー。]
[キャンセル待ちで飛行機のチケットとれたから帰ってきた!]
[今渋谷にいるんだけど、]
[逢いたい]
 着信

由香は、すぐさま竜馬へ電話を掛ける。真理は、テレビを消した。
「なんで?予定では28日って言ってたのにぃ?・・・うん、真理と一緒。・・・。」
由香は真理の顔を見る。真理は、
「行ってきなよ。」
由香は携帯に、
「わかった、今から行く。」
電話をきり、慌ただしく仕度を始める。
「真理、ごめんね。」
「いいよ。それより急がないと。」
真理は笑顔で答えた。由香は準備を整え、短い廊下を走って玄関へ向かう。ドアを開け、振り返ってもう一度真理の顔を見るが、言葉は出なかった。
 (バタン)とドアが締り、(カンカンカンカン)と由香の走り去る音がフェイドアウトしていく。そのすべての音が、静まりかえった部屋の中で響き渡った。
 今宵、真理の心は、初恋の失恋に似た想いだった。

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24話 2006年12月 メールX'masパーティー

 つい先ほど、クリスマスケーキを食べていた由香は、竜馬に逢いに行ってしまった。テーブルの上には食べ終えた皿が置いてある。真理はテーブルの上の物をすべて片付けて、どっしりとソファに座る。携帯のランプが点滅していることに気づいたが、しばらく点滅を眺めた。
真理は携帯を手に取り、開いて確認すると三通のメールが届いていた。一通目は、朋生からだった。

[メリクリ~!]
[楽しんでる?俺は弘志たちと男だらけのクリスマスパーティーしてます。弘志のおかげで盛り上がってるよ。]
[真理ちゃんも聖夜を祝って楽しんじゃってください♪]
 着信

真理は返信しなかった。楽しんでいない気持ちや感情が、朋生に伝わってしまうのが怖かった。二通目は父親からだった。

[メリークリスマス。元気にしているかい?]
[こちらは真理のいない初めてのクリスマスを迎えて、なんだ、違和感があるな。]
[どうだ?そっちの生活は慣れたか?困ったことや嫌なことがあれば、いつでも帰ってきて良いんだからな。家族のみんな、おまえの味方なんだから。]
[それでは、体には気を付けなさい。父より]
 着信

真理は涙をこらえた。父から貰った初めてのメールを保護して返信した。内容は簡単なものだった。簡単にしなければ父に甘えそうだからだ。三通目は隼人からだった。

[メリークリスマス]
[特別な夜だから、真理ちゃんはきっと忙しくしてるんだろうな!?]
[僕は家でゆっくり過ごしてます。]
[最近、連絡取ってなかったから、元気にしてるかな~と思ってメールしました。]
[また時間のあるときで構わないからメールください。]
[では今夜を楽しんでね。]
 着信

[メリクリ~!]
[私も一人で暇してます(._.)]
[クリスマスはいつも家族と過ごしてたから、今年はちょっとさびし~(ToT)/]
[隼人さんも一人でさびしいなんて思ってるのかな?]
[だったら少し付き合って欲しいなぁ~なんて。]
 送信

真理はメールを送る。すぐに隼人から返信がきた。隼人と会話を続けているうちに、真理のさみしさは消えていた。メールのやり取りは24時を過ぎても続いた。

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25話 2006年12月 大晦日

 クリスマス以降、由香と竜馬は急接近した。そうなるだろうと予測していた真理は、
「やっぱり2人は付き合ってるよね?」
と冷やかす。すると由香は、
「付き合ってないよぉ、ねぇ?」
「うん、まだ。」
竜馬は照れながら受け応える。
真理と由香と竜馬の三人は、待ち合わせ場所の渋谷駅にいた。待ち合わせ時間を少し過ぎたところで、
「ワリ~ワリィ。」
調子よく弘志が遅れてやってきた。あとは朋生だが姿はない。
「朋生遅いね!?真理ぃ、ちょっとメールしてみたら?」
と由香は真理へ促す。真理は朋生と格闘技の試合を観にいった時のことを思い出しながら、メールを送った。四人が揃って10分くらい経ったころ、
「ごめん、遅れた。」
両手を合わせて朋生が現れた。
「おせ~よぉ!?」
と弘志が大声で言う。
「メール届かなかった?」
「届いてたけど、あとちょっとだったから。」
真理は、格闘技を観に行った時と同じ答えが返ってくると分っていながら、朋生に問いかけた。
「よし!ボーリング行くぞっ。さっき電話して予約入れてるから急ごう!」
「さすが!」
「行こー。」
竜馬の気転で、朋生と弘志の遅刻は、その場に置き忘れ去られた。

 ボーリング場に着いた五人。弘志の提案で、1ゲーム目の成績に応じてハンデを付け、2ゲーム目を勝負する。2位と5位が折半でゲーム代を支払うことになった。
1ゲーム目は、竜馬が1位で2位弘志。あとは似たり寄ったりの成績だった。2ゲーム目は絶妙なハンデのため均衡した展開となり、大いに盛り上がる。五人のレーンが白熱する。そして、
「うああぁ~~~。」
何処からか、誰の声か分からない、悲鳴のような音でゲームは締めくくった。
「結局、俺と朋生かよぉ。」
弘志は、うなだれながら朋生の肩にもたれ掛かった。

 ボーリング場を出た五人は、沈みかけている今年最後の太陽を眺め続けた。

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26話 2007年1月 初詣

 真理と由香、竜馬と弘志に朋生の五人は、年越しを『フランケンの花嫁』で迎えることにしている。ここでは毎年、大勢で新年を迎え、早朝に明治神宮へ初詣に行くのが恒例になっている。今年はその行事に新たな五人が参加する。
 「みんな静かにー!!」
オーナーの一言で店内は静まり返る。すると電話の時報が時を刻む。そして、
「5,4,3,2,1、ハッピーニューイヤ~~~。」
『フランケン』の盛り上がりは極に達する。各々、今年の抱負や去年を振り返ったり、さまざまな思いで店内をいっぱいにしていた。

 五人は混み合う時間を避けるため、早めに明治神宮へ向かった。鳥居をくぐり、神社に着くと小銭を取り出し賽銭を投げ入れる。五人は一斉に手を合わせ願い事をする。
真理は、誰よりも長く祈願をする朋生に気づく。合せていた手を下ろし、神社を見つめる朋生に、
「何をお願いしたの?」
と真理はたずねる。朋生は恥ずかしそうに、
「俺、子供のころから体が弱くて、よくイジメられてたんだ・・・。俺アホだから、大人になればプロレスラーみたいな体になると思ってたんだよね。現実はもやしっ子だけど。格闘技が好きになったのも元々は憧れから始まってるんだ・・・。・・・それで、健康でいられますようにって。」
真理の眼には、なよなよした朋生が一層弱々しく見え、
「プロレスラーみたいな体は難しいけど、病気しない丈夫な体くらいなら作れるんじゃない?何かスポーツでも始めてみたら?それと、願い事を人に話すと叶わないんだって。」
真理は微笑みながら朋生を励ました。と同時に、朋生を励ます自分が恥ずかしくなり、暗がりで顔を赤らめた。ところが、心はとても穏やかだった。
 おみくじを引こうと、神社の外れにある建物へ移動した。そこで、
「そうだ!?真理ちゃんにあげようと思って持ってきたんだ。はい、チケット。」
弘志は財布から、二枚の格闘技チケットを取り出す。それを真理に渡そうとする瞬間、右斜め後ろから痛いほど鋭い、獣のまなざしのような視線を感じた。
「プロレスのチケットなんだけど、俺あんまり興味ないから真理ちゃんに譲ろうと思って。」
殺気みなぎる朋生の視線に圧倒される弘志は思わず、
「ほら、二枚あるから朋生でも誘ってあげたら?て言うより誘いなよ?!」
真理は以前に朋生のチケットでプライドを観ている。気配を消して真理の背後まで迫ってきた朋生が、
「俺、日曜日空いてるよっ!」
神社には似つかわしくない朋生の呪縛で、真理は身動きできなくなった。硬直した身体を解き放つため、
「じゃあ、一緒に行く?」
と力を振り絞った。
「うん!!」
朋生は満面の笑みで、子供のようにうなずく。すると弘志の緊張感と、真理の呪縛は取り払われた。

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27話 2007年1月 川の流れのように

 初春の清々しい昼下がり、真理はパソコンを眺めていた。弘志から貰ったチケットで、朋生と行ったプロレスをもう一度見直すためだ。リングまでの花道を独自のパフォーマンスで飾る。興奮と感動を引きずりながら後楽園ホールを後にする時の余韻が今も続く。
 余韻にひたる女はもう一人いた。由香は、すでにアフリカへ発ってしまった竜馬との想い出に浸っていた。竜馬と過ごした一瞬のひとときを鮮明に覚えている。二人で行った何でもない雑貨屋、お腹を空かせて初めて飛び込むイタリアンレストラン。どれをとっても、二人のために用意されたステージかのように思えた。
 真理と由香は、新年から浮かれ気分だった。
「ねぇ、真理ぃ。」
「ん~?」
「真理はさぁ、朋生と付き合ってるの?」
不意に由香の質問が飛ぶ。真理は、
「最近よく遊んでるねぇ?でも付き合ってないよ。」
自問自答のように答える。由香は一度考え込んで、
「未来サイトの隼人さんとも連絡取ってるんでしょ?」
「うん。」
「あたしの意見ていうか、感じたことなんだけど、やっぱり身近にいる人の方がいいよ。・・・うん。」
由香は自分の意見に同意しながら、
「竜馬と一緒にいてつくづく感じたもん。お互いがちゃんと向き合って話せるって大事だよ!」
「ほら、朋生は真理に気があるしさぁ、いつでも会える人でしょ?真理も嫌いじゃなさそうだし付き合っちゃえばぁ?」
真理はパソコンの画面から目をはずし、
「朋生といると楽しいし、趣味も一緒で話題も絶えないんだけど・・・、頼りないでしょ、アイツ?」
「確かに!」
由香は大きくうなずいた。その姿を見ている真理は、由香と眼が合った途端、二人で一斉に大笑いしてしまった。
「成り行きだよ。成るように成るさ、きっと!?」
なぜか真理と由香は、『川の流れのように』を歌い始めた。

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28話 2007年2月 さえない男の一日

 低血圧の男は、ベッドからなかなか出られない。ベッドの中からテレビを付けると、今年一番の冷え込みらしい。低血圧で朝が弱いというのは嘘らしいが信じられなかった。
目を開けているのか開けていないのか分からない状態で、男は器用に仕度をする。二つの使い捨てカイロを開けて、予備に二つをポケットにしまい込んだ。

 通学電車の中、年配者の方が乗り込む。男は席を譲ろうと腰を上げる。向かいの女性も腰を上げた。年配者の方は女性の席を譲り受けた。男は上げた腰を下した。

 大学に着くと真っ先にトイレへ駆け込む。今年一番の冷え込みは、男にはこたえるらしい。お腹にきてしまった。

 昼休みは学食で食べるのがこの男の日課だが、昨日はバイトの給料日だったため、友人を誘って大学近くの飲食店へ行こうと考えた。数少ない友人の中で『弘志』という男性がいる。弘志はカワイイ女性を連れていたので、声を掛けずに諦めた。
次に二人組の女性のところへ向かった。ところが二人の姿が見当たらず、結局ひとりでランチを食べた。

 講義を終えて教室を出る。今度は夕食を誘おうと二人組の女性のところへ向かう。男は二人の女性のうち、一人の女性が気になっていた。それも去年からだ。その女性の名は『真理』という。
二人の女性が出てくるのを待ち伏せし、声を掛けた。
「ねぇ、夜ごはん食べに行かない?」
教室から出てきた真理は、
「うん、いいよ。由香は?」
『由香』という女性は、いつも真理と一緒にいる。三人で食事をすることもあるが、男は真理と二人だけで食事に行きたかった。何故なら、男のおごりで食事に行きたいからだ。しかし、天はさえない男を見捨てたりはしなかった。
「ん~、美羽にカラオケ行こうって誘われてるんだよねぇ。今日は二人で行ってきなよ?」
由香は残念そうに言う。男は『美羽』という人物は知らないが、感謝の気持ちでいっぱいだった。
「分かった。あんまり遅くまで、はしゃがないように!?」
「真理もね!」

 由香と別れ、男と真理は夕食まで、少しの時間をゲームセンターで潰した。
定番のUFOキャッチャーで、今話題のキャラクター人形が300円で捕れた。すると彼女は、とても無邪気に、そして愛らしく喜んでいる。男はその姿をみて、この上ない至福の時を感じていた。
夕食は焼肉を食べることになった。男にとって、女性に食事をおごるとすれば、『焼肉』と決めていた。店内で流れていたBGMに聴き入っている彼女が、
「この曲いいよね?」
とそれとなく言う。
「誰の曲?」
男は彼女に歌っているアーティストの名前を聞いて、それを携帯のメモ帳に書き込んだ。

 彼女との別れがきた。また明日になれば、大学で彼女と逢えるのに、男はいつもさびしくなる。
今日一番の寒さで彼女は手を擦り合わせている。男はポケットから使い捨てカイロを二つ取り出して彼女に差し出すと、一つを手に取った。もう一つを袋から開けた。そのぬくもりで男のさびしい心も温めてくれた。

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29話 2007年3月 憂鬱

 親戚の結婚式に出席するため、由香は青森へ帰郷していた。真理は一人で東京に残った。残ったからといっても特にすることもなく、無駄に時間を費やした。
 春の香りが漂う陽気な天気の下、真理は代々木公園を散策した。犬の散歩をする人や、アウトドア用のスポーツグッズを持ち込む家族など、休日の楽しみ方は様々だった。
 真理は公園内を一周し、木陰のベンチに座った。携帯を開くと二通メールが届いていた。一通は由香からのメールで、真っ白なウエディングドレスを着た花嫁の写真と、新郎新婦の横に並んだ由香の写真が添えられていた。もう一通は、母親からだった。

[元気にしてる?]
[真理も由香ちゃんと一緒に帰ってくれば良かったのに。]
[由香ちゃんのお母さんも真理に逢いたがってたよ。]
[勉強が忙しいのは分かるけど、たまには帰っておいでね。 母より ]
 着信

真理と由香の両親は、家族ぐるみの付き合いがあり、由香の帰郷は真理の母親も知っていた。真理は(勉強が忙しい)という理由で帰らなかった。一年ほど前、無理を言って東京を選んだ真理は、東京での成果や変化、話のネタなどもないことを後ろめたい思いでいた。

[心配しないで。元気にしてるよ~(^O^)/]
[ごめんね。勉強もバイトも忙しいから帰れないけど、まとまった休みができたら帰るから。]
[お母さんこそ体に気を付けてね。]
[また連絡します。]
 送信

嘘のメールを送った。(本当は代々木公園で時間潰しをしてる)なんて言えない。

 ふと真理は、身の回りの人達のことを考えた。まず由香は恋愛に真っ向から挑み、この一年で人としてもすごく成長していると思えた。竜馬は自分の夢のため、今を一生懸命生きている。弘志は学生生活を全うしているし、朋生も朋生で将来のことを見据えている。
そして自分は、と考えると胸が苦しくなる。何かに一生懸命打ち込んでいるわけでもなく、夢や目標の展望がない自分を恥ずかしくも思えた。
 真理は、陽の沈みが遅くなったことだけが、今日の収穫だった。

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30話 2007年4月 桜

 新年度を迎えた真理と由香は、校舎から正門へ抜ける通りを歩いていた。
去年と変わらず、サークル勧誘の群れが新入生に襲いかかる。正門へ抜ける通りは、まるで餓鬼道(常に飢えと渇きに苦しむ亡者の世界。)のように餓鬼どもであふれていた。やはり、餓鬼は真理と由香の下へやってくる。
「ねぇねぇ、新入生?」
「落語好き?落研に入らない?」
サークル勧誘の言葉が雨あられと降り注ぐ中、由香は力士の勝者が懸賞袋を受け取る前に行う手の仕草で、
「間に合ってます、間に合ってますから。」
の一言だけで切り抜ける。真理は、たくましく?成長した由香のあとにつけば良かった。
 サークル勧誘の渦から離れたところで、一人の男が怪しく忍び寄り、由香に声を掛けた。
「どこのサークルにするか決めた?」
明朗な声で話しかけるのは竜馬だった。その脇に弘志と朋生も伴っている。由香は笑顔からわざと強張った顔をして、
「サークル勧誘だぁ~!」
と真理の腕を引っ張りながら走りだす。
「ヤベー、逃げられるぞっ!?」
と弘志は、真理と由香のあとを追う。竜馬と朋生も、
「待て~!」
弘志に負けじと全力で走りだす。
由香に腕を引っ張られている真理は、去年と変わらない風景の通りで、去年とは違う感情で通り過ぎる。五人はそのまま正門を通り抜けた。

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コメント 2

takagakigumi

励ましを頂きまして、
ありがとうございました。
まだ落ち着きを取り戻せませんが、
がんばってまいります。
by takagakigumi (2007-10-19 21:52) 

トシシロ

お互いこれからです。
がんばっていきましょう。
by トシシロ (2007-10-19 23:39) 

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