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未来サイト 31話~42話 [小説 未来サイト 全49話]

31話 2007年5月 由香のトキメキ
32話 2007年5月 小さな恋の歌
33話 2007年5月 真実の道理(真理)
34話 2007年6月 雨
35話 2007年6月 病院
36話 2007年6月 スレチガイ
37話 2007年7月 サッドカフェ
38話 2007年7月 心の素顔
39話 2007年8月 厳格
40話 2007年8月 ダイエット
41話 2007年9月 温泉
42話 2007年9月 門出



31話 2007年5月 由香のトキメキ

 「今度さぁ、あたしと竜馬、真理と朋生でデートしない?」
由香の気まぐれで四人は、渋谷でダブルデートをすることになった。竜馬は3月末に日本へ帰国。その直後、周囲の思惑どおり由香と交際をはじめた。

 「またアイツ遅刻だ!」
由香と竜馬は、手をつなぎながらガードレールに腰かける。真理は、待ち合わせ時間より少し前に朋生へメールを送っていたが返事はない。待ち合わせ時間から10分以上経過して、
「ごめん、遅刻しちゃった。」
朋生は息を切らせて到着する。真理は、朋生と待ち合わせをして遅刻をしなかった時を知らない。
「だいぶ前にメールしましたけど、どうして返信してくれないんですかぁ~?」
真理はいやみたっぷりの口調で言う。
「いや、あとちょっと・・・。」
「あとちょっとだったから!」
いつもの朋生の言い訳に重ねて真理が答えた。険悪ムードが漂うところに、
「またお前、ひげ剃るのに手間取っただろ?あ~あ、あごの下切れてるぞ!?真理にいい顔したいのは分かるけど、遅刻は遅刻。ちゃんと謝れっ、ほれ。」
竜馬は朋生の頭を押さえつけるように下げさせて、横に並んでいる竜馬も一緒に頭を下げた。
「真理ごめん。こいつ、ホント不器用でさぁ、前にウチ泊まってひげ剃る時も、見てる方が怖いくらいヘタクソなの。今日は許してやってくれ?!」
「それと朋生も次からちゃんとメール返せよ?心配するだろう?次真理に怒られても知らねえからな。」
「さっ、行き成りだけど腹減らねぇ?メシ食いにいこう!?」
竜馬の機転で、その場は落ち着いた。

 四人が行き付けの『フランケン花嫁』に向かって歩き始めた。
由香は少し気になっていた朋生のあごを視ると、傷など一つも無かった。あの険悪ムードをしのぐための、竜馬の演技と優しさに胸がキュンとなり、思わず竜馬の首に後ろから抱きついた。竜馬ははじめ驚きはしたがすぐに、
「おいおい、何いきなり?!くっ付き過ぎー、歩きづらいって!?夜はまだまだ先だろ?」
と笑顔の中にいやらしさをかもし出した。

 由香は、トキメキの続く今を、とてつもなく幸せに感じていた。そして、人を好きになる喜びと、好きになった人が竜馬でよかったと深く実感した。

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32話 2007年5月 小さな恋の歌

 『フランケン』で食事を済ませた真理と由香、竜馬と朋生の四人は、渋谷の公園通りを歩いていた。洋服店には、夏服を展示する店が多くなっていた。真理と由香はお気に入りの店に寄る。竜馬と朋生は付き合わされた。
真理と由香はオシャレにうるさく、店内を隈なくチェックする。竜馬は独自のオシャレがあり、朋生は独特の雰囲気がある。朋生に似合いそうな服は真理が選んであげた。
次に向かった店には、今年流行の浴衣と水着が並んでいた。気が早いようにも思えるが、すでに五月で猛暑を予感させる暑さが続いていた。浴衣も水着も試着ができるようになっており、真理と由香のショーが始まった。竜馬は、
「それもいいけど、さっきの方が可愛いんじゃないの?」
と由香と真理に男のアドバイスをおくった。朋生は目を見開いて眺めているだけだった。

 思いのほか浴衣&水着ショーで盛り上がった四人は、由香の提案で、暑さしのぎでカラオケに行くことになった。
さっそく歌本を開き、曲番号をリモコンに打ち込む。はじめにマイクを握ったのは由香だった。次に竜馬が曲を入れた。真理も曲を入れ、朋生に歌本を渡そうとしたが別の歌本を開いていた。以前、朋生は歌が苦手と言っていたことを真理は思い出していた。
「何歌うの?」
真理は朋生に問いかけるが、
「ん?」
と素気なく答えた。
由香が歌い終わり、竜馬が歌い始める。由香は二曲目を入れようとしたが、朋生の選曲が終わっていないようだったので、
「思えば、朋生の歌って聞いたことない。早く曲入れてよぉ?」
朋生は由香に急かされ曲を入れた。
 真理が入れた曲の終わりの伴奏が流れる。朋生は二本目のマイクを強く握り締めていた。余りにも緊張してる朋生の姿をみて竜馬は、
「一発目だからね。最初だから声出ねえよな~。」
と気休めの言葉をかける。しかし朋生の耳には届いていなかった。
曲の伴奏が終わると真理はやきもきし始めた。由香は二曲目を入れて三曲目を選ぶ。竜馬は室内へ入る時に頼んだドリンクを飲んでいる。
 朋生が歌いだすと、真理は言葉を失った。由香は歌本を閉じる。竜馬は飲んでいたドリンクを持ったまま、朋生の歌声に酔った。歌い終えた朋生は大きく肩で深呼吸をし、緊張から解き放たれた。
「なんだよ、朋生歌うまいじゃん!?」
「すごい!?ビックリした。」
竜馬も由香も驚きを隠せないほど朋生の歌は大反響だった。真理は歌本を開き、曲を選ぶフリをした。
今朋生が歌った曲は、以前二人で焼肉を食べに行った時BGMで流れていた曲で、そこで真理は「この曲いいよね」と言った。その小さな一言を忘れずにいた朋生が隣に座っているだけで、真理は胸が高鳴っていた。
もう一巡して、朋生の番が来たとき、由香と竜馬は期待をしたが、音を外しまくる朋生に幻滅した。それから朋生は、結局三曲目は入れなかった。

 四人はカラオケボックスを出て代々木公園へ向かった。真理は朋生が歌った曲を無意識に口ずさんでいた。(広い宇宙の数ある一つ・・・♪)

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33話 2007年5月 真実の道理(真理)

 公園通りをのぼり、代々木公園に着いた四人は二組に別れた。由香と竜馬は公園内を歩き、真理と朋生はベンチに腰かけた。
真理と朋生はベンチに座ったものの、しばらく沈黙が続いた。陽は低くなり、辺りは人影も少なくなっていた。
「だいぶ涼しくなったね。」
口を開いたのは真理だった。
「うん。大丈夫?寒くない?」
朋生は真理を気遣った。そして、沈黙は続いた。
 真理は、朋生に聞きたいことがあった。
「あの曲・・・覚えたの?」
「うん。俺、カラオケ苦手だけど、あの曲だけはどうしても・・・歌えるようになりたかったから。」
朋生は下を向いたまま答えた。しばし間が空く。
「あのさぁ・・・。」
真理は本質に迫ることを戸惑う。真相を知って冷静でいられるか不安だった。それでも真理は、
「あのさ、前に焼肉屋で、」
「うん。」
朋生は下を向いたまま答えた。また間が空く。真理は勇気を振り絞り、
「あのさぁ、もしかして・・・あたしのため?なんて。」
朋生は顔をあげ、
「・・・うん。」
真理に向い、答えた。
数十分、数時間が過ぎただろうかと感じるほど、数秒間が流れる。
朋生が顔を寄せる。真理は眼を閉じる。

代々木公園の小さなベンチで、二人は初めてキスをした。

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34話 2007年6月 雨

 学校が終わり、真理と由香はバイト先へ向かう。バイトの始まる時間まで余裕があったため、近くのレトロな喫茶店で時間を潰した。
「結局、朋生かぁ。」
由香は残念そうに言う。
「ダメ?」
真理は伏し目がちに言う。由香はストローでグラスの中の氷を回していた手を止め、
「うそうそ。あたしは朋生で良かったと思うよ。」
真理は、
「ありがとう。」
と、はにかむ。
「ところで隼人さんとはどうなってるの?彼氏できたって報告した方がいいんじゃない?」
「かなぁ?なんか言いづらいな。」
真理が戸惑いの表情を見せると由香は、
「だめだよ真理!あっちこっちに気があるとうまくいかなくなっちゃうよ?隼人さんにも、朋生にも悪いでしょっ。」
「そうだね、ちゃんと報告します。」
真理は軽くお辞儀をした。
 いつからだろう。子供の頃は、無鉄砲な由香を真理が静止するのが当たり前になっていたのに、今はそれが逆転しているように真理は感じていた。そして中学校の卒業式のことを思い出した。

 真理は中学生時代、三年間想いを寄せていた男子がいた。卒業式の日、真理は告白しようか悩んでいることを由香に打ち明けた。由香は迷わず男子に、真理が想いを寄せていると伝えてしまう。
「ごめん。俺、他に好きな人がいるから。アイツに言っておいて。」
と由香は聞きたくもない返事を受け取ってしまった。真理は予想していた返事を由香から聞き、涙を流した。まったくの部外者であった由香は、なぜか真理以上に大泣きをし、傷心に浸りたい真理を困らせた。

 「あっ、雨降りそう。そろそろ行こう?」
由香は携帯をバッグにしまい、立ち上がる。会計を済ませ、二人はバイト先へと向かった。

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35話 2007年6月 病院

 6月というのに連日の猛暑に真理と由香はバテ気味だった。二人は大きめのTシャツを一枚着た格好で、部屋中をうろついている。そこへ由香の携帯の着信音が鳴る。
「由香、携帯なってるよぉ!?」
「分かってるぅ。」
由香は気だるく携帯の通話ボタンを押した。
「はい。・・・ん、弘志?どうしたの?竜馬と一緒じゃないの?」
竜馬は、弘志と朋生の三人で遊ぶ約束をしているはずだった。
「・・・うん、・・・うん、解った。今からそっちへ行く。・・・ん、じゃぁ。」
由香は通話を切り、おもむろに口を開く。
「竜馬が怪我したって。それで今病院にいるから行って来る。真理はどうする?」
「あたしも一緒に行く。」

「おう。」
診察室の前のソファに座っていた弘志が、真理と由香の到着に気づき、小さく声を掛けた。
「竜馬は無事なの?」
由香は弘志に問いかけ、下を向いている朋生に目をやる。
「実は・・・」
弘志が事情を説明する。内容はこうだ。

 竜馬、弘志、朋生の三人は、『フランケンの花嫁』で酒を飲んでいた。そこへ四人組の男がひどく酔った状態で入店してくる。そして四人組は竜馬に絡み出した。竜馬は「店を変えよう」と言い、弘志と朋生は賛成した。
三人は店を出た所で、次の店はどこにするか話し合っていると、四人組の男が『フランケン』から出て来て、しつこく竜馬に絡み口論となってしまった。その時、四人組の一人が竜馬を殴りつけた。
竜馬はすぐに立ち上がり応戦する。弘志も加わり四人組を圧倒し始めた。四人組の男を追い払ったが多勢に無勢。負った傷は深く、竜馬は右足を引きずり、弘志は左目が腫れていた。朋生は両脇に竜馬と弘志を抱え、近くの救急病院へと連れて行った。

「という訳で・・・ごめんなさい。」
弘志は、怒りに満ち溢れている由香へ深々と頭を下げた。直ちに真理にも頭を下げた。
 診察室の扉が開き、医師に礼を言いながら後ろ姿で竜馬が現れた。由香はツカツカと歩み寄り、竜馬の頭を平手で思い切り殴った。
「何やってんのよぉ!?このバカー!」
非常口の蛍光灯だけが光る静かな病院の廊下に、由香の罵声はこだまする。
「ろくでもない男が3人も揃うと、ほんっっっと、どうしようもないんだから!行こっ真理。バカ3人はほっとこ!?」
「ごめん。」
と竜馬は申し訳なく謝るが、由香は無視して病院の出口へ向った。

 理は病院を出たところで、小刻みに震えている由香の肩を抱き寄せた。
由香は薄ら安堵の涙を浮かべていた。

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36話 2007年6月 スレチガイ

 右足をかばいながら歩き、大学の正門をくぐった竜馬は、十メートル先に真っ黒なサングラスをした弘志に気づく。弘志もまた、右足を引きずる竜馬に気づき声を交わす。
「格好わりぃなぁ!?」
「お前のサングラスの方がダセぃよ!」
「うるせっ。」

 真理と由香は、講義を終えた竜馬のもとへ行く。竜馬の周りには、弘志と朋生が居り、他にも複数の女性に囲まれていた。
「あたしたちが心配しなくても大丈夫そうね?」
由香は露骨に不機嫌な顔をする。竜馬を囲っていた女性たちは、軽い別れのあいさつをして、名残惜しそうに立ち去った。
真理は朋生を見つめる。朋生は眼を逸らし、
「俺、トイレ行ってくる。」
その場を逃げ去った。ただならぬ素振りを察した由香は、真理の耳元で、
「何かあったの?」
と小声でささやく。真理は朋生からケンカの事を何一つ聞かされていなかった。意を決して、
「あのぉ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど?!」
真理の知りたがっている事は、ケンカの時のことだろうと竜馬も弘志も推測した。
「うん、何?」
竜馬が応える。真理はためらいながらも、
「朋生は・・・、朋生はどうして竜馬を助けなかったの?」 
「それは俺が手出すなって言ったからだよ。」
「ケンカしろって言ってるんじゃないの。止めに入るとか、警察呼ぶとか、方法はいくらでもあったでしょ?」
「そんな悠長なこと言ってられない状況だったんだって!なあ?」
竜馬は弘志に同意を求めた。弘志は頷く。
「俺一人でもイケそうだったし、弘志の手助けで十分足りてたんだよ。弘志は最後の方に油断して、あんな一発食らってたけど!?」
弘志は笑いながら目元を押さえた。
「それで朋生には手出すなって言ったんだよ。」
真理は竜馬の説明に納得のいかない顔をしている。竜馬は続けて、
「人数増えるとドンドン事がデカくなるだろう?!もし、俺とコイツがヤバかったら朋生だって黙ってなかったと思うよ。現にあの場から離れずに見守ってたわけだし。」
真理は何かを言いたそうだが、言葉が出ないようだった。竜馬は、
「あんまりアイツ責めるなよ!?」
沈み込んだ真理の様子を見かねて由香は、
「元はと言えば、絡まれるアンタの顔が悪い!」
「顔かよ?!」
由香と竜馬はちゃらけて見せる。弘志は笑い、真理は苦笑いを浮かべた。

 真理は夕方、朋生に電話をした。
「今、大丈夫?」
「ごめん忙しいから、夜メールする。」
「・・・うん、分かった・・・。」

 約束通り、その日の夜に朋生からメールが届いた。真理はメールに気付くが読まずに削除した。

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37話 2007年7月 サッドカフェ

 「まだ仲直りしてないのぉ?真理はさぁ、このまま終わっていいと思ってるの?」
土曜日の午後、真理と由香は原宿のサッドカフェでランチを摂っていた。ランチタイムのピークを過ぎて空席はあるが、それでも込み合っていた。
「ていうか、意地になってない?」
由香が必要に問い詰めるには訳があった。真理と朋生は一ヶ月以上も、口もきかない目も合わせない状態が続いていたからだ。
「意地になってるかもしれない。」
由香に言われた意地というのは当たっていると真理は思えた。竜馬から乱闘事件の事情を聴いて、それで納得すればよかったのに、どうしても朋生の口から説明を受けたかったと今でも真理は思っている。
「元はと言えば竜馬が悪いんだよ、アイツのせいなんだから。あのトラブルメーカーが。」
由香は矛先を竜馬に向けようとしたが、真理は、
「あのケンカの事はもういいの。あたしが怒ってるのは、その後の朋生の態度が許せないの。」
と由香にはどうしようもない方へ向いていた。
「結局、話し合わないと解決しないんだから。意地の張りっこしないで・・・」
「この話はやめー!」
真理は由香の話をさえぎった。
テーブルの上にランチプレートが運び込まれ、
「さっ、食べよ!?」
真理は笑顔を振舞った。由香も、
「うん、食べよ。」
と笑顔を作った。
この日から由香は、真理と朋生の問題に口を挟まなくなった。

 夕方まで表参道をぶらぶらと歩いた二人。
由香は竜馬と会う約束をしているため、表参道交差点で別れた。
真理は一人、骨董通りの雑貨屋などを覗いた。けれど、うやむやな気持ちは晴れないままだった。

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38話 2007年7月 心の素顔

 表参道から帰ってきた真理は、パソコンを立ち上げた。起動するまでの間に部屋着(大きめのTシャツ一枚)に着替え、メイク落としセットをパソコンの横に並べた。
 メールが五通届いていた。一通目と二通目は朋生からだった。

[なにしてるの?]
[ちょっと忙しくてなかなか連絡取れないけど、メールだったら読む時間あるから。]
[返事待ってます。]
 着信

[お願い!]
[竜馬から聞いた。乱闘事件のこと、俺から説明がなくて怒ってるって。]
[俺は必要ないと思ってたんだ。でも必要ないと思ってるのは俺だけなんだよね!?]
[だから真理は怒ってる訳だし・・・。]
[今度ゆっくり会って話ししよう。]
 着信

 三通目は小林 隼人からだった。

[久しぶり。]
[最近連絡ないから、どうしてるのかな~と思って。朋生君とケンカでもした?]
[何かあったなら相談に乗るよって大それたこと言えないけど、]
[真理ちゃんが人に話して、少しでも気が紛らわせるなら何でも言ってね。]
[僕が出来ることはそれくらいしか無いから。]
 着信

真理は思う。いつも困った時や悩んでいる時に隼人からメールが届く。今度のことは自分で解決しようと思いつつも、ほがらかな性格で話しやすい隼人にメールを送った。

[まさにケンカの真っ最中(ToT)/]
[実は、ちょうど一ヶ月くらい前に・・・・・・(以下省略)]
 送信

真理は乱闘事件の事とその後の朋生の態度について説明した。しばらくすると隼人から返信メールが届いた。

[長文になっちゃった。]
[まず乱闘事件で朋生君がとった行動は正しいと思う。竜馬君も弘志君も腕っ節が強いんでしょ?]
[事を荒立てない為に、必死でその場で手を出さずに耐えたんだと思う。]
[その後朋生君の態度だけど、正しいことをしたんだって自負してるけど、]
[竜馬君を助けなかった格好に思われちゃうことが嫌で自分から説明しないって気がする。]
[男ってバカでしょう?好きな人に格好悪いところは見せたくないし、隠したりもするから。]
[真理ちゃんの気持ちもわかる。格好悪いとか言い訳とかどうでもいい、他人からとかメールじゃなくて、本人の口から直接聞きたいよね?]
[そこんところ、朋生君が解っていればケンカにならずに済んだのかな?]
[これは同性の意見になっちゃうけど、バカな男の性も理解してあげたら?]
[最後は説教みたいだね、ごめん。]
[僕なりの解釈で良かったら、遠慮なく何でも聞いてね。]
 着信

真理は自分の器の小ささと相手への思い遣りの無さを悟らされたように思えた。それでも朋生との意地の張り合いは、もう後戻りはできないほど深刻になっていた。
 四通目は妹からのメールだった。

[お姉ちゃん元気~?]
[あたし彼氏と別れちゃった。原因は彼の浮気<`ヘ´>]
[あとお父さんが怒ってたよ。東京行ったきりで、実家に帰ってこない親不孝者がって!]
 着信

 五通目は母親からだった。

[もうすぐ夏休みよね?]
[今年はあんた帰ってくるんでしょうね?]
[お父さんも会いたがってるから。]
[家では『親不孝者』呼ばわりしてるけど、内心は寂しがってるのよ。]
[帰ってくる時は連絡しなさい。 母より ]
 着信

真理は母親と妹のメールだけで実家の様子が目に浮かぶ。
 五通のメールを読み終えて、真理のメイクは落ち、本当の素顔が鏡に映っていた。

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39話 2007年8月 厳格

 新幹線の車内は静かなものだ。東京駅を出たころは、旅行客や仕事で地方へ向かう人たちが雑談を交わしていたが、八戸駅が近づくに従って眠りにつく。

 真理は八戸駅を降りると母と妹が車で迎えに来ていた。
「お帰り。」
「ただいま。」
一年半ぶりの再会で多少緊張していた真理は、懐かしい顔ぶれに安堵の胸をなでおろす。母の運転で実家に戻り、玄関をくぐると兄が笑顔で、
「お帰り。」
と優しく迎えた。真理が十八年間住み続けた家は、一年半の空白があろうと何も変わりはなかった。心から湧き上がる何かを例えるように、
「ただいまー。」
と大きな声で表した。
「もうすぐお父さんも帰ってくると思うから、ビックリさせてあげましょ。」
真理の帰省は父に内緒だった。荷物を部屋に置いて、母と兄と真理と妹の四人は父の帰りを待った。
二重扉の一枚目の扉が開く音がする。仕事道具を片付けているようで、二枚目の扉はなかなか開かない。四人は気を揉みながら耐える。ゆっくりと扉が開かれる。
「おかえり~。」
真理の一声で目を丸くする父だが、すぐにいつもの顔に戻った。
「ん、ただいま。」
父は四人の間をすり抜けて台所へ向かう。水道水をコップいっぱいに汲み、一気に飲み干した。

 厳格な父は定時に仕事から帰ってくるとすぐに食事を済ませ、夜七時から晩酌を始める。夜九時を過ぎた頃には床に就く。これを何十年と続けてきた。
家族五人で食事を済ませた後、いつも通り父は酒を飲み始める。ただ今日に限っては違っていた。
「母さん、真理呼んでくれ。」
真理は妹の部屋にいた。母に呼ばれ、居間で酒を飲む父の向いに座った。
「真理はいくつになったんだ?」
「十九だよ。来月二十歳になる。」
父は、グラスのビールを一口含み、
「一ヶ月早いが、お前も付き合え。母さん、グラス持ってきてくれー。」
洗い物をしていた母はタオルで手を拭って、父より小さいグラスを卓に運んだ。その小さなグラスに父がビールを注ぐ。
「まあ、飲め。」
真理はグラスを手に取り、ビールを飲んだ。
「東京の生活はどうだ?慣れたか?」
「うん。」
父と真理には共通の話題がない。一言二言で会話が終わってしまう。そのため酒の進みは早かった。しばらく他愛もない短い会話が続き、父はいつになく上機嫌で酔っていた。
「一つだけ言っておく。お前はもう大人だ。これからは自分の事は自分でしなさい。」
「うん。」
「それでも迷ったり、困ったり、自分の手に負えないことが出てきたら、父さんに言うんだぞ!?お前は独りじゃないんだから。」
真理は紅色の顔で頷き、
「お父さん、ありがとう。」
と心の底から感謝した。
隣の部屋の食卓から二人の様子を見守っていた母は、無意識に微笑んでいた。
「母さん、布団敷いてくれ。」
「敷いてありますよ。」
母は真理と目が合いニコリと笑う。父は布団に寝そべり、大ノ字のままイビキを掻きだした。真理は卓の上のグラスなどを片付けた。

 部屋に戻った真理は、今までにない、それとも気付かなかった感情に押し潰され、涙が止まらなくなった。その涙はとてもとても甘酸っぱかった。

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40話 2007年8月 ダイエット

 お盆を過ぎれば涼しくなる、と言われていたのは10年以上も昔の話だ。それは青森に於いても一緒で、冷凍庫にストックされているアイスの減りが早いと感じつつ、二つ目のアイスを取り出す真理。実家の居間でアイスを食べながらテレビを見ていた。
「お姉ちゃーん、ちょっと来てー!」
突然、二階から妹が大声を張り上げる。
「なーにー?」
と一階の居間から真理は答える。
「早く来てー。」
真理は渋々二階の妹の部屋へ向かった。妹はパソコンの前でおどおどしていた。
「お姉ちゃん、インターネットが使えなくなっちゃったんだけど?!」
「何で?」
「わかんな~い。」
「もぉ~。席代わって。」
真理はパソコンの前に座り、インターネットの設定やセキュリティソフトの設定などを調べた。しかし原因が解らずパソコンとのバトルが始まった。
 結局、無線LANの電源が落ちていただけだったと、気づいた時には陽が暮れてしまった。
「繋がったよ~。」
真理は一階にいる妹に大声で呼びかけた。
「う~ん。」
と一階の居間から返事はあったものの、妹は二階に上がって来なかった。真理はそのままメールチェックを始める。すると隼人からメールが届いていた。

[実家はどう?]
[羽を伸ばし過ぎてウエイトアップしてない?なんて(笑)]
 着信

真理はアイスの棒をゴミ箱に捨て、隼人にメールを送った。内容は家族の話で長文になってしまった。すぐに隼人から返信が届く。

[真理ちゃんは家族が好きなんだね!?]
[家族のみんなも真理ちゃんのこと好きなんだなって想像できる。]
[なんか羨ましいほど素敵な家族だね。]
[真理ちゃんがいつかお母さんになって家族を持っても心配いらない。お手本があるから。]
[でもよかった、元気そうで。それも家族のパワーのおかげかな?]
[またメールします。家族の自慢話もまた聞かせてください。]
 着信

真理がメールを読み終えると、隼人からもう一通届いていた。

[ごめん、言い忘れた。]
[今度仕事の都合で転勤する事になったんだ。]
[詳しいことはまだ分からないけど、分かり次第お伝えします。]
[それと一度会って話ができればと思っているので、よろしくです。]
 着信

追伸を読み終えた真理はパソコンを閉じた。
 一階からカレーの匂いが漂い、真理は階段を一段飛ばしで駆け下りる。

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41話 2007年9月 温泉

 真理は子供のころから家族で通っている温泉施設がある。この日は母と真理と妹の三人で温泉施設に行った。
施設のカウンターにいる年配者の女性は、真理が初めて来た時から代わっていない。三人は衣類を脱ぎ、一日の汚れを洗い流して浴槽に入る。
「あ~。」「あー。」「あ~。」
三人は揃って声が出てしまう。
真理は由香と竜馬の話をした。妹は由香と今でもメールのやり取りをしているため、大体のことは知っていた。母は興味深く真理の話を聞いた。
「ところで、お姉ちゃんの恋愛話は?」
唐突に妹が、話の焦点を真理に合わせた。
「そうよ、真理は好きな人はいるの?」
と母も悪乗りする。真理は一瞬言葉を失ったが、
「好きな人いるよ。」
「トモキって人だよね?由香ネエから聞いてるよ。」
「やめてよ、名前出さないでよぉ!」
妹のペースに真理は引き込まれる。
「年ごろなんだから当たり前よ。で、そのトモキさんって彼とはうまくいってるの?」
母もまた悪乗りを続ける。真理は鼻の下まで湯に浸かる。
「でも、この話はお父さんに内緒よ!?お父さんが聞いたらどうなるやら。」
「言えてるぅ。」
母は改まって、
「恋をすることはいいこと。現に東京から帰ってきた真理は大人っぽくなったし、何よりあんた、キレイになったわよ。」
鼻の下まで湯に浸かっている真理の耳は次第に赤く染まっていった。

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42話 2007年9月 門出

 東京に行ってしまう真理を家族総出で送り出す。一年半前と同じ光景がそこにあった。
「それじゃあ行くね。ほんとうお世話になりました。」
真理は家族全員にお礼のあいさつをする。
「また学校休みになったら帰ってらっしゃい。」
母は明るく振舞う。
「お姉ちゃん、由香ネエにもよろしくね。」
妹は元気に言う。
「気をつけてな。」
兄は優しく声をかける。父は一年半前と変わらず、背中を向けたままだった。
「うん、みんなありがとう。」
 真理は高校を卒業と同時に東京の大学へ進学した。きっかけは、ただ何となく親元を離れてみたいというだけだった。夢や目標があるわけでもなく、ただ何となく。
離れてみて気づくこともある。真理はこの夏で、父や母、家族に愛されていることに気がついた。大切な家族に見守られていることが心の支えになった。
 真理はゆっくりと父に歩み寄る。広い背中を見上げて、
「お父さん、ありがとう。」
そっと父の背中に抱きついた。父が頷いていることを腕伝えで感じる。と同時に、真理の細い腕にしずくが落ちた。一年半前、父が背中を向けたままだった理由を知る。真理は涙をこらえて、
「あたし、お父さん似かな?」
懐かしい父の匂いから離れ、
「よし、行ってきます。」
真理は玄関の扉をあけ、大手を振って歩きだす。 眩い光が真理の門出を祝福する。

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コメント 1

響(きょう)

精力的に更新してますね☆
by 響(きょう) (2007-10-21 16:10) 

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