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小説 Te amo 全15話+1話 ブログトップ
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Te amo 1話 [小説 Te amo 全15話+1話]

困惑

 「☆±〇÷¶ー!? %*”&◆+#!!」
中国系マフィアが中国語のような言葉を早口で怒鳴る。俺はクライアントの身を案じ、
「Mr.コバヤシー!?危険だ!ここを離れよう。」
その時、背中から全身へ激痛が走る。と同時に意識を失った。


 木漏れ日が俺の顔に差し込む。その日差しは目を閉じていても燦々と降り注ぎ、否応なしに目を覚まさせる。
上半身を起こそうとするが全くいうことを利かない。手足を動かそうとすると胸元や背中に痛みを伴う。唯一、自由が与えられていたのは目と耳と鼻だった。
 天井を見上げるとヤモリが俺に挨拶をする。先ほど木漏れ日と思っていた日差しは鉄格子の付いた窓から差し込んでいた。薄汚れた壁にもヤモリがへばり付いている。そして、俺はスプリングの硬いベッドに寝ているようだ。他にはスライド式の大きな扉があるだけで殺風景な部屋だった。
 『コンコン』
大きな扉を軽くノックする音がコンクリートの箱部屋に響く。俺は押し黙っていた。
「失礼しま~す。」
現れたのは真っ白な服を着た女だった。
「目が覚めたようね。気分はどうですか?」
白衣の女は慣れた手付きで点滴の液を取り換え始める。
「今日は何日だ?」
白衣の女は手を休めず、
「12月3日よ。」
俺は1週間眠り続けていたようだ。液体を換え終えた白衣の女は、
マリオさん、先生呼んできますね。」
と扉を開けたまま出て行った。
 耳を澄ますと子供がはしゃぐ音や老人同士の談話が聞こえる。老人の話している内容はお互い自慢し合うように自身の病状を語っていた。
 俺の上半身は包帯でグルグル巻きにされている。
「ノリマキか!?」
以前、日本料理で食べた事のある海苔巻きに似ていた。
 点滴針が刺さっている腕ではなく、もう一方の腕をゆっくりと上げる。数cm動かすだけで海苔巻きの身体は痛む。包帯を緩めて消毒液臭いガーゼを剥がすと胸元に3cmほどの縫い痕があった。
 「あなた!?」
俺の妻は泣きながら擦り寄ってきた。息子2人も妻の足元に纏わりつき、覗き込むように俺の顔を見ていた。
「本当に良かった。」
妻はそれ以上言葉を発しなかった。息子2人は妻の足元を離れ、ベッドに乗ろうとしたが妻が制した。妻の後ろには白衣を着た男もいた。そして、
「マリオさん、気分はいかがですか?」
と妻の肩越しに問いかけてくる。俺はようやく自分の置かれている立場を理解した。
やもり.jpg

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Te amo 2話 [小説 Te amo 全15話+1話]

スラム

 俺の住むスラム街では幾つかの決まりがある。一つはこのスラムの人間同士で争わない事。盗みやケンカはもちろん、隣人の妻や旦那に手を出してはならない。その他には仲間を裏切らない事。と言うより、子供のころから仲間と力を合わせなければ、このスラムでは生きていけない。そして家族を愛する事。旦那は妻を、妻は旦那を、子供は親を、親は子供を愛する。これらの当り前の事がスラムでは決まりとなる。
スラム街.jpg

 俺は妻と息子の3人暮らしだ。妻のお腹の中には新しい家族が宿っている。貧しいながらも幸せな家庭を築き上げた。ただ家族が増えれば今の貧しさに拍車を掛ける。そこで妻や子供のために少しでも収入が高い職を探し始めた。
 スラム街の仲間で最近ボディガードの仕事を始めたジョンは高収入を得ているという。俺はジョンの家を訪ねた。
「よう。マンゴーが安く手に入ったから持ってきた。」
ジョンと俺は幼馴染みだ。歳も近く気心の知れたヤツだ。
「おう、マリオか。いつも悪いな。ビールでも飲むか?」
「ああ。」
ジョンは手作りの木製椅子から立ち上がり、冷えていない2本のビール缶を手に取った。俺は小さなパイプ椅子に座った。
「はいよ!」
「わりーな。」
マンゴーをテーブルに置き、ジョンと俺はビールで乾杯した。
 始めは他愛ない話をした。スラムでは病気の話か金の話だ。頃合いをみて、
「ところでボディガードの仕事見つけたんだって?」
俺は直球に投げかけた。この一言だけでジョンは俺の心内を見透かすだろう。ジョンは一口ビールを含み、
「・・・お前のカミさん、妊んでるんだって!?」
俺もビールを一口含み、
「ああ。」
ジョンはビール缶をテーブルに置き、そのビール缶の淵をなぞりながら考え込んでいる様子だった。
「分かった!明日ボスに聞いてみるよ。紹介出来るかはそれからだ。」
俺はビールを一気に飲み干し、
「ああ、頼む。」
飲み干したビール缶をテーブルに置くとジョンは綺麗に缶を潰した。それが明日の糧となる。
「それからボスは日本人だ。特に問題ないだろ?」
「もちろん!!」
俺は小さなパイプ椅子から立ち上がり、ジョンの家を出ようとした時に後ろを振り返った。
「その日本人の名前は?」
ジョンは少し躊躇いながら、
「Mr.コバヤシだ。」

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Te amo 3話 [小説 Te amo 全15話+1話]

契約

 窓の外を眺めると道路沿いに植えられた樹木が立ち並ぶ。昼の日差しを浴びる樹木は疲れを見せず凛としている。道路の向こう側はエメラルドグリーンの海が広がり、浜辺では煙草を吹かした警察官がビーチパラソルを日傘にしていた。よく見ると警察官が座っているテーブルの上にはカラフルな飲み物と機関銃が置かれていた。
エメラルドグリーン.jpg
 ボディガードの仕事を始めて3年ほど経つ。俺とジョンは待合室で待機していた。窓外の景色は何も変わらなかった。
 ジョンの口利きでこの仕事に就いてから収入は以前の10倍となった。2番目の息子も無事に生まれ、すくすくと育っている。息子2人のケンカを見ていると幸せを感じることがある。しかし、その時は厳しく優しく躾ける。
収入は増えたが今でもスラムに住み、貯蓄を始めた。スラムは何かと不便だが今はまだ都合が良い。それに突然羽振りがよくなると、思わぬ災いを招くことがある。今はまだスラムで暮らしている。
 「お~い。」
待合室のドア越しにMr.コバヤシの声がする。俺とジョンは腰を上げた。ドアが開き、
「そろそろ時間だ。今日は余分にマガジン(弾倉)持っていけ。」
俺とジョンは頷く。

 Mr.コバヤシの仕事は、時に危険を伴う。もちろん承知でボディガードの仕事を請けた。そして仕事内容に口を挟まないことも契約内だ。今日の取引相手は通常のビジネス相手ではないのだろう。
 Mr.コバヤシと俺とジョンの3人は、運転手付きの黒い四輪駆動車に乗り込む。取引場所は郊外にある隠れた空き地だ。その空き地は若者が新しいピストルの試し打ちをするくらいで、滅多に人はいない。
 取引場所の空き地に着き、俺が先に車を降りて辺りを見渡す。人の気配は全くなかった。2分後、白いワンボックス車が現れて20mほど離れた所に車を止めた。Mr.コバヤシとジョンは車中で何かを話している。しばらくするとジョンが黒いスーツケースを持って車を降り、ゆっくりと白いワンボックス車の方へ向かった。
 ジョンは車を降りる瞬間、俺と目があった。その目は何かを言いたそうだった。ふと俺はジョンに話し掛けようとしたが怯んだ。
マリオ!車に乗れ。」
俺は言われるがまま車に乗る。ジョンは取引相手の白いワンボックス車に乗り込む。
「よし。行くぞ。」
「ジョンは?」
Mr.コバヤシは少し間を置いて、
「ジョンは今日からヤツらと行動をする。」
俺はジョンから何も聞かされていなかった。車はジョンを乗せた白いワンボックス車を残して走り出す。

 黒い四輪駆動車は綺麗に植えられた樹木の間の道路を走る。
「ヤツは必ず裏切る。必ず・・・。」
Mr.コバヤシは独り言のようにいうが、俺に聞こえるように言い放ったのは明白だった。その言葉は取引相手のことかジョンのことを言っているのか分からなかった。
俺は車窓から流れる樹木を眺めていた。日は落ちかけ、樹木は昼の蒸し暑さに疲れ果てたのか、ぐったりとしているように見えた。
ヤシの木と夕焼け.jpg

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Te amo 4話 [小説 Te amo 全15話+1話]

行方

 マンゴービール缶を持ってジョンの家へ向かう。薄汚い扉を軽くノックしてから俺は、
「マンゴー持ってきたー。」
とジョンの家の仕切りをまたぐ。
「いつも悪いねぇ。」
ジョンの奥さんが俺を出迎える。マンゴーとビール缶をテーブルの上に置き、
「実は新しいアパートに引っ越すことになってさ、お別れを言いに。」
「さびしくなるわ。」
ジョンの奥さんは本当に寂しそうな顔をした。
「ここにはチョクチョク遊びに来るから、そんな顔するなよ。」
と俺は社交辞令を言う。ジョンの奥さんは、
「内の人が帰ってきたら伝えておくよ。」
「ああ、頼む。それじゃあ。」
俺が家の仕切りを出ようとした時、
「これを貰えるのも最後なんだね!?」
ジョンの奥さんはマンゴーの袋の中にあった現金入りの封筒を手に取って言った。俺は頷き、その場を後にした。
バスケットコート.jpg
 このスラム街では行方の分からなくなった者を探すのはタブーだ。行方を知らない方が幸せな場合もある。いつか帰ってくるなどと淡い夢を描くのは、将来の夢を描くのと同じで儚い。
 ジョンは郊外の空き地でワンボックス車に乗って以来、姿を見せていない。ジョンの奥さんも初めは気に懸けていたが詮索はしない。以前ジョンの奥さんがボソッと言っていたことで(内の人は外に女でも作ったのよ)と考えているようだ。事実ジョンはワンボックス車に乗る前まで、市街にアパートを借りて女を囲っていた。だが今はその女も行方知れずだ。


 『Tulululululululu Tulululululululu』
「マリオー、電話に出てくれな~い?今手が離せないのー!」
俺の妻はキッチンから大声で叫ぶ。その可愛らしい声で目が覚めた俺は、ベッドから起きて電話に出る。
「はい。」
「おう俺だ、小林だ。これから出掛ける。悪いが付き添ってくれ!?」
「はい、分かりました。今から行きます。」
俺は電話を切り、妻のいるキッチンへ向かった。ダイニングルームに息子2人は大人しくテーブルに着いている。
「パパおはよー!」「もうお昼だよぉ。」
息子2人は俺を温かく迎えてくれた。
「済まない、パパはこれから仕事なんだ。一緒に食事はできそうにないや。」
キッチンにいる妻と息子2人にキスをしてから、着替えてアパートを出た。

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Te amo 5話 [小説 Te amo 全15話+1話]

スパイスと油

 黒い四輪駆動車の中でMr.コバヤシからこんなことを言われた。
「今日はビジネスじゃないんだ。ただ荷物を渡すだけだから難しいことはない。」
難しい仕事ではないといいながら俺は呼び出された。昨日までは、今日は休みだった。妻と息子2人で隣町のフェスティバルへ行くはずが、いつもの車の中にいる。フェスティバルに行くことは妻しか知らず、息子2人と約束をしなかった事が唯一の救いだ。

チャイナタウン.jpg
 車を止めた場所はチャイナタウンだった。車を降りるとスパイス(八角)の臭いと油の臭いが漂う。その臭いを発する飲食店から白い調理服を着た男が声を掛けてくる。Mr.コバヤシも大きなバッグを持って車を降り、
「よし、行くぞ。」
調理服を着た男に店内へ案内された。案内人の着ている服は所々に赤黒い血が付いている。今し方、生き物をさばいていたようだ。
 店内の一番奥に2階へ上がる階段があり、その階段の手前で待つようにと案内人に指示される。Mr.コバヤシと俺は言われた通りに待つ。
「早くしてくれねぇかな~。」
重そうなバッグを持ち直しながらMr.コバヤシは少し苛立っていた。しばらくして2階から案内人が下りてきて、もう少し待つように指示された。Mr.コバヤシは苛立ちを露わにして、
「時間がないんだ。早くしてくれー!?」
と2階に向けて怒鳴った。その声は誰もいない店内にも響く。
 耳を澄ますと2階で男同士の言い争いのような声が聞こえる。その声は次第に大きくなり、やがて、
「Mr.コバヤシー!早く2階へ荷物を持ってこい!?」
と命令口調で男の声がした。Mr.コバヤシの苛立ちは露骨に顔に表れていた。それをあおるように、
「何してるんだ?早く持ってこい!?」
と2階から男がはやし立てる。危険を感じた俺は、
「今日は帰りましょう。上で何かトラブルがありそうです。」
「いや、バッグを渡すだけだ。問題ないだろう。悪いがお前が持って行ってくれないか!?」
とMr.コバヤシは先程とは打って変わって穏やかな顔をして言った。その時、俺の脳裏に最後のジョンの眼差しが横切った。
「やめましょう。あなたを独りにはできない。日を改めましょう。」
俺の胸騒ぎは収まらず、その場を逃げ出したい気分でいっぱいだった。すると2階からゆっくりと中国マフィアの男が中国語のような言葉を喋りながら下りてくる。遠くではパトロールカーのサイレンが鳴っていた。
「Mr.コバヤシー!?危険だ!ここを離れよう。」
と後ろを振り向いた時、Mr.コバヤシは酷い目付きと醜い口元を作っていた。

 俺は迂闊だった。Mr.コバヤシの顔つきに気を取られて、中国系マフィアの男に背部を見せてしまった。その瞬間、鋭い刃物のようなもので背中を刺された。俺は息もできず両膝をつく。胸元には5cmほど刃先が見えていた。
 まるで時間が止まったかのように辺りは静寂を保っている。ただスパイスと油の臭いは漂っていた。

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Te amo 6話 [小説 Te amo 全15話+1話]

裏切り

 薄汚れた壁にへばり付くヤモリを観察する日が続くうちに新しい発見をする。彼(ヤモリ)は餌となる小さな虫がいない時は何時間も動かない。息をひそめ音も立てず自身を守る。ところが、餌となる小さな虫を見つけると彼は豹変する。一瞬の隙に虫に近づき、何の迷いもなくそれをいただく。そしてまた動きを止める
 彼の行動には全く無駄がない。鳴りをひそめている時も小さな虫を至福の顔で頬張っている時も緊張の糸は切らさない。しかし俺は油断した。自然界の中で俺は弱者で彼は強者だ。

 スライド式の大きな扉は日中開いたままだ。そこに背の高いスーツを着た男が仁王立ちしている。
「起きてたか。」
スーツを着た男の名はカルロス。刑事をしている。俺がチャイナタウンで刺された事件を担当していた。カルロスは俺の寝ているベッドの脇の椅子に座る。
「それにしてもお前は悪運が強いな。その傷でよ~く生きてるよ。」
俺を串刺しにした刃物は中国武術で用いられる柳葉刀と呼ばれるものだった。片刃で湾曲した片手刀で、刃幅は非常に広い。俺は運よく心臓を逸れた。
「やっと捜査も大詰めだ。」
カルロスはスーツのポケットから煙草を取り出すが、また元のポケットに戻した。
「中国系マフィアの自供では、Mr.コバヤシからお前を殺すように依頼されたそうだ。お前を刺したとき、大きなバッグを持っていたのはMr.コバヤシで間違いないと言っていた。これでお前の容疑は晴れた。」
カルロスは前屈みになり両手を組む。
「初めからお前を疑っていないがこれも仕事でな、最終確認だ。お前はMr.コバヤシの護衛であそこに居た。バッグの中身は知らない。中国系マフィアの男も知らない。お前はいつものように仕事をこなし、2階から下りてきた男に突然後ろから刺された。これでいいな!?」
カルロスはやはりポケットから煙草を取り出し火を点けた。
「捜査上、詳しく話せないがお前には少しだけ教えてやる。我々当局は何年も前からMr.コバヤシを追っていた。密売容疑でだ。なかなか足を掴ませなかったが、ひょんなところから有力な情報を得た。」
煙草を吹かしながら、しかめ面をした。
「我々組織の中に中国系や日本系のマフィアに飼いならされたヤツもいる。当局が情報を掴んだこともMr.コバヤシには筒抜けだろう。そこでお前を捨て駒にしたようだ。」
俺は黙って聞いていた。
「大きなバッグをお前に持たせて始末すれば真相は闇の中。疑わしいMr.コバヤシはぬらりくらりと言い逃れていただろう。この国ではアリバイも金で買えるからな。」
カルロスは煙草を床に捨て、足で揉み消す。
「それからマリオが居ないと通報してきたのはMr.コバヤシ本人だ。お前が刺された後だ。死んだと思ったんだろう。それが仇となるとは。まあ、早く通報しないと現場からバッグだけを誰かが持ち逃げしちまうしな。」
消した煙草を足でベッドの下へ押しやる。そして、
「じゃあ、そろそろ。」
と腰を上げる。
「ああ、そうだ!お前が生きてると中国系の男もコバヤシも知った時の驚きようはすごかったよ!お前にも見せたかったぜ。」
カルロスは背中を向けて右手を上げながら立ち去った。
柳葉刀.jpg

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Te amo 7話 [小説 Te amo 全15話+1話]

雛鳥

 ある新聞の一面に市長と握手をする日本人の男性の写真が載っていた。その新聞の記事を読むと日本の企業がこの国のリゾート開発に参入すると発表されていた。そのリゾート開発の内容は観光客を対象にしたホテルやゴルフ場の建設など、これから大掛かりな工事を行う予定とのこと。日本企業代表と市長は満面の笑みで握手をしていた。
 市長にとってはまたとない好機だろう。これを逃すまいと、市や国をあげてバックアップすると約束したと書かれている。貧しいこの国では外資獲得はもちろん日本の企業や技術を誘致することは必須だ。市長の選択はもっともだろう。

 鳥が朝早くから活発に働いている。真っ青な空を優雅に飛び回り、一羽が立木に留まり暫くすると飛び立つ。今度は別の一羽が立木に留まる。二羽がそれを交互に繰り返していた。つがいの鳥がきっと緑に覆われた木の幹などに巣を作っているに違いないと思いながら、マリオは新聞を折りたたみテーブルの上のコーヒーカップを手に取った。
 病院を退院してから仕事はせず、貯えだけで家族と過ごした。息子2人の成長は早く、毎日たくましく伸び伸びと育っている。その急激な成長をマリオは妻とともに穏やかに見守った。
 ある日のこと。下の息子が夜泣きをした。妻が「どうしたの?」と尋ねると「パパとママが僕を置いてどこかに行っちゃった。」と言う。妻は「パパもママもここにいるわよ。どこにも行かないから安心して寝なさい。」と下の息子を寝かしつけた。
 掛け替えのないその小さな命は寝ている時も精いっぱい力強く生きているのだと知った。そんな暮らしを続けるには、やはり仕事をしなくては続かない。愛する妻と息子2人の将来のためにマリオは職探しを余儀なく迫られた。
雛鳥.jpg
 つがいの鳥が立木に近付くと雛鳥たちは一斉に鳴き出す。つがいの鳥が飛び立つと雛鳥たちは鳴りを潜める。また別の立木からは蝉の鳴き声が聞こえる。耳を澄ますと蝉の鳴き声は二重にも三重にも重なり合唱していた。そんな折、一通の手紙が届いた。その手紙は警察からの手紙だった。
「マリオ、これ何かしら?」
妻は汚れたものを掴むかのように親指と人差し指だけで手紙を持って来た。俺は引出しからペーパーナイフを取り出し封を切って三つ折りの手紙を取り出した。
「なになに?」
妻は手紙を興味深そうに覗き込む。
 手紙の内容はこうだ。ある日本人のボディガードをお願いしたいと書かれていた。日本語が話せ、ボディガードの経験豊富な人物を探していると。差出人は刑事のカルロスからだった。しかも政府お達しの依頼で悪い話ではないと書き加えられている。ボディガードの仕事を嫌っている妻は、
「どうするの?」
と不安そうに言う。その時、息子2人が足元にすり寄り、上の息子が意外なことを言い出した。
「パパは僕たちとママを守るだけじゃなくて、いろんな人を守ってるんでしょ?」
「へ~、パパって凄いんだね!?カッコイイー!」
息子2人は尊敬の眼差しと屈託のない笑顔で見つめる。
「大丈夫だよ。パパが仕事の時は僕たちがママを守るから心配しないで。」
妻は息子2人を抱きしめ、俺を見上げた。
「お前たちが居ればこの家は安全だな!?お父さんはお父さんにしかできない事をする。」
妻の雑念も息子2人に追い払われた。

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Te amo 8話 [小説 Te amo 全15話+1話]

小さな依頼主

 カルロスの車でクライアントのもとへ向かった。山道を30分ほど走ると閑静な別荘地がある。そこは避暑地として海外でも有名だ。カルロスは運転する車を警備員のいる大きな門の前で止めた。ゆっくりと警備員が近づき、カルロスは警察手帳を見せる。すると観音開きの大きな門は音とともに開いた。

 「さあ、お出ましだ。」
俺とカルロスは殺風景な応接間に案内された。応接間は家具などが揃っていないため、ただ広さだけが目立つ。俺とカルロスはしばらく待たされた後、クライアントは現れた。
「初めまして。私は刑事のカルロス。そして彼はマリオ。マリオはあなたのボディガードを担当する者です。」
俺とカルロスの前に現れたのは、10歳くらいの少年だった。
「ハジメマシテ。ワタシハトシシロデス。」
『トシシロ』と名乗る少年は片言の英語で自己紹介をする。それが滑稽で尚更少年を幼く見せた。

 俺は事前にカルロスからクライアントの情報は聞いていた。まずクライアントは『トシシロ』という少年で、以前新聞に載っていた日本企業の社長の息子だ。その新聞で市長と握手をする日本人社長の後ろにトシシロは映り込んでしまった。
 トシシロをボディガードする理由はひとつ、誘拐だ。日本企業のリゾート開発にあたって、山や平地を買収する。広大な土地には不法で住んでいる者も多い。住まいを失ってしまう者の恨みは日本人社長だけでなく、より小さなターゲットへも向かう。しかも父親である日本人社長は他にも仕事を手掛けているため、既に日本へ帰ってしまった。不法住居者の恨みは少年であるトシシロに集中してしまった。さらに金目当てでトシシロを狙う者もいるだろう。

 「初めまして。私はマリオです。日本語、英語、スペイン語と話せるので、お好きな言葉で話しましょう。」
俺は少し嫌味を含めて言ったが、トシシロは目を見開いて、
「よかっっったぁ~~~、日本語が話せる人で。」
と無邪気に安堵する様子は子供そのものだった。そんなトシシロを見ていると嫌みたらしい言い方をした自分が恥ずかしく思えた。
「それからあなたにコレをお渡しします。コレは政府の許可を得ているモノです。」
俺はカルロスから預かっていたピストルをトシシロへ渡した。そのピストルは小型でグリップも小さくトシシロの手には合っていた。
「あのぉ、ピストル撃ったことないけど大丈夫かな?」
「大丈夫、しっかり教えます。そのピストルが最後はあなたを護ります。」
「うん。分かった。」
トシシロは素直に受け入れた。
ワルサーPPK.jpg

 こうして俺は小さなクライアントのボディガードが始まった。まずピストルの使い方を教え、次に守られる側の心構えや立ち振る舞いなど一から教えた。他にも語学勉強のため英語の家庭教師までする破目になった。
 次第に互いを「トシ」「マリオ」と呼び合う仲に至る。仕事上、私情を挿むことは良くないが心から俺を慕うトシの純朴さに肩入れしてしまう。それでもトシのために特別な感情を抑えた。

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Te amo 9話 [小説 Te amo 全15話+1話]

緊張

 カルロスの口利きで、地方の警察署内にある射撃場でトシはピストルの腕を磨いていた。俺の見る限り、トシの腕は相当のものがある。それもそのはずだ。一日多い時は5千発も撃つ。そこらの連中より余程撃ち込んでいる。警察署内では(オリンピックに出た方がいい)という声も出ているがトシには関係ない。身を守る術に過ぎない。

 トシがここまでピストルの腕を磨くには理由があった。ボディガードの仕事を受けてから半年くらいだろうか、トシを車に乗せて郊外を走っている途中銃撃にあった。
 山間に囲まれている直線の見通しのよい道で、突然複数の銃声が聞こえた。おそらく山間に潜んで遠くからの射撃だろう。運転手は車のスピードを上げ、俺は山間に向けて威嚇射撃をした。弾の補充をしようと身をかがめてマガジンを取り換えようとした時、トシは頭を低くして腕だけを車窓に伸ばし、山間に発砲していた。
 トシは俺が教えた通りの行動をとっていた。先に撃たれた場合、助かる可能性は限りなくゼロに近い。その場合は相手を見ずに打ち返し、ひたすら逃げろと教えた。トシは忠実に教えを守り、有るだけの弾を撃ち返していた。
 俺とトシの発砲のため複数の銃声は聞こえなくなった。車は猛スピードで山間を抜けて難を逃れた。
道.jpg

 警察署内の射撃場で警官たちが見守る中、トシは小さな的を撃ち抜く。
「トシ!今日はこのくらいで引き揚げよう。」
トシは全ての弾を的の中心にあて、ピストルを下ろした。
「うん、手首が疲れた。」
ピストルをフォルダーにしまい、トシは俺に手渡した。トシのピストルの所有は政府から許されているが、未成年のため持ち歩くことは禁止されていた。
「今日はこのまま帰らず、寄りたいところがある。トシはいつも家でTVゲームをしているか、ピストルを撃ってるだけだろ!?たまには違うところにも連れてってやるよ。どうだ?」
「行くー!!どこ行くの?どこ??」
射撃練習をしていた時のトシの目は鋭い。しかし、今のトシの目はプレゼントを開ける瞬間のような目をしている。
「俺の家だ。妻はトシが来るのを待っている。一緒に食事をしよう。前に言ってたうるさい息子たちも楽しみにしてるよ!」
マリオの家かぁ。なんか緊張する。」
「ああ、俺も緊張するよ。さぁ、行こう。」

 俺とトシは車に乗り込み、運転手が車を走らせる。途中先程のピストルをトシに渡し、それを背中の腰元に挿して上着で隠した。
 トシは車中でこんなことを言い出した。
「僕は4人兄弟だけど、男は僕だけなんだ。だから3姉妹と僕は、仲は悪くないけど良くもないんだ。それに生れた時から体が弱かったから、一緒に生活することも少なかったしね・・・。マリオの子供たちは仲いいんでしょ?」
「いつも兄弟ゲンカをしているけど、すぐに仲直りして一緒に遊んでる。さっきのケンカは何だったんだって思うくらい仲良くしてるよ。心配はいらない。トシも仲良しになれるさ。」
トシが緊張しているのは、やはりそこだった。トシの周りには常に大人がいる。大人との付き合いは出来ても、年の近い者との接し方はほとんど知らない。俺はそこも教えてあげたいと思い、家に招いた。そのため俺も緊張していた。

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Te amo 10話 [小説 Te amo 全15話+1話]

約束

 「不思議ね、あの子と会うのは今日が初めてなのに。子供たちには国境や人種など関係ないのかしら。」
妻はトシと息子たちを見ながら含み笑いする。トシの語学力と息子たちの英語のレベルが近いため、3人は戸惑いなく会話を弾ませ遊んでいる。
「俺の気兼ねはいらなかったようだ。本当に良かった。」
無意識に作った俺の微笑に妻は気付いていた。
「私もあの子が好きよ。お金持ちなのに気取らないし素直だし。」
妻もトシを気に入ったようだ。
「トシは生れた時から命を狙われているんだ。12歳になった今でも異国で狙われている。生まれ持っての孤独を抱きながら生きてきたんだ。」
「トシにも家族はいるんでしょう?」
「ああ、だけど両親とも兄弟ともほとんど一緒に暮らしていなかったみたいで、父親と会うのは数年に1度くらいらしい。」
 妻には内緒にしている事がある。トシの父親は日本企業の社長ではあるが本業はMr.コバヤシと同じ、日本マフィアのボスだった。俺は初めから知っていたが妻に隠してボディガードの仕事を請けた。マフィアのボスを守るとはまったく別と捉えていたからだ。今もそう思っている。
 「楽しんでるところ悪いが、トシ、そろそろ時間だ。」
クリスマスツリーの飾り付けをしていたトシと息子たちは残念そうにお別れの挨拶をした。
「本当に今日はありがとう。」
トシは妻や息子たちに、寂しそうな声で訴える。
「またいつでもいらっしゃい。私たちはいつでも歓迎よ!」
「うん!絶対に遊びに来てよぉ!?出来たらクリスマスも一緒に遊ぼっ?」
上の息子はクリスマスを一緒に過ごそうとトシを誘うが、
「うん・・・約束はできないけど、また来れたら遊びに来るね!!」
トシはひっそりと応えた。
クリスマス.jpg

 安全を確認して車に乗り、トシの住まいへ向かった。
マリオ、今日は本当に楽しかった。ありがとう。」
トシは心から俺に感謝の言葉を言う。ただ、トシの目の奥には侘しさを残していた。それは(また来るから)と息子と約束ができないからだ。

 昔にトシからこんなことを聞いたことがある。今まで一度だけ約束をしたことがあると。
 トシに興味を持った日本の同級生『カツ』と友達になったことがあり、休みなどは頻繁に遊ぶようになった。しかし、夜遅くなってもカツが家に帰ろうとしない。そしてトシは、
「どうしたの?何かあった?!」
と尋ねた。すると、
「トシと遊ぶのは今日が最後なんだ・・・。実は親にトシと仲良くするなって言われててさぁ・・・。解るだろう?本当にごめん!」
トシは、
「うん、しかたないよ。もう遊ぶ事も話す機会も無くなるけど、僕はすごく楽しかったよ!今までありがとう。」
カツは泣きながら、
「トシはいいヤツだって親を説得してみせるからさぁ、その時はまた遊ぼう?約束だよ!?」
トシは目に涙を浮かべて、
「うん、約束する。」
と応えた。
 それからは話す事も街ですれ違っても声を掛けることはなかったという。

 トシは車を降りて、トシの体にはそぐわない大きな豪邸の扉を開けた。後ろを振り向き、笑顔で俺に手を振る。振り向き直したトシの背中は扉の向こうの誰もいない独りの世界へと浸っていく。

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